『夏のサンタクロース』 アンニ・スヴァン

 

この童話集には13のお話が収められている。
夏には緑豊かな森、野原、海が、冬には雪や氷に閉ざされて、すっかり姿が異なってしまうフィンランドのお話。
リアルな動物や人びとに混じって、山には、ずるがしこい怪物(?)ヒーシやベイッコがいる。森には小人が、海には水の娘が、そして、氷の上には氷姫が暮らしていて、お話の中を自由に歩き回っている。


13話ちゅう、一番好きなのは『お話のかご』
三人の兄弟が、運だめしをしようと父の家を出かけて行く。それぞれに幸福をみつけるのだけれど、末っ子がみつけたものが素敵だ。賢さ、財産、権力、名声、それよりずっとずっと素晴らしいもの。


『山のベイッコと牛飼いのむすめ』では、沢山の豪華な部屋や綺麗なドレスの詰まった山の洞窟のお城よりも、ずっと素晴らしいお城がある、と牛飼いの娘は言う。
野原は広々とした大広間、空が天井で、緑の草地と赤いヒースの茂みが床。そびえる木々が壁だという。
野原を愛する娘のお城の美しいこと。
この牛飼いの娘の言葉は、『山の王の息子』にも通じる。地底の国の王妃になった娘は、地上の生活を懐かしむ人の子。
長く厳しい冬を過ごす北欧の人たちの夏への思いがこもっているのだろう。


『春をむかえにいった三人の子どもたち』は、厳しい冬のさなかに、子どもたちが春をさがしに行くお話だけれど、この物語は、当時フィンランドを支配していたロシア帝国の厳しい政策などを背景に書かれたことを、注釈で知った。


『夏のサンタクロース』、サンタクロースのブーツには不思議な力があるのだけれど、そのブーツを片方、ずるがしこい怪物ヒーシに盗まれてしまって……。
クリスマスじゃない時のサンタクロースの消息がわかるのが楽しい。


あるお話。深い森の小屋で、ひとりのおばあさんが糸を紡いでいる。
「糸をつむぐとお話の毛糸玉ができる。毛糸玉ひとつにお話ひとつ、その仕事をおばあさんは、もう何百年もつづけてきたというのです」
これはそのまま、おばあさんの仕事場のような童話集。