『レベル3』 ジャック・フィニイ

 

『ゲイルズバーグの春を愛す』に続いて、ジャック・フィニイの二冊目。
タイムトラベルもの、現代(1957年)と過去とが何かの事情で混ざり合う話、幽霊と出会う話……などなど、11篇の不思議でノスタルジックな物語を読んだ。
『ゲイルズバーグの春を愛す』の続きに出会えたような、嬉しい短編集だった。


自ら積極的にその体験を望む主人公たちも、いつのまにかそこに誘いこまれていた主人公たちも、おおまかなところで共通するのは、「孤独」で「不安」であること。
「現代は、不安とか恐怖とか、戦争とか心配とか、そのたぐいのあらゆるものに満ち満ちている」から。
そういうことなら、私がいる現在(2023年末)だって……。
だけど、愛すべき世界へ誘ってくれる切符も、機械もないし、あちらとの独特の空気と波長が合う可能性もない。
現在のわたしにとって、彼らの「小さな旅」の物語は、わたしのタイムマシーンだ。行ったきりにならないで、本を閉じると同時にここへ帰って来ることが約束されているから、ある主人公たちのように悩んだり躊躇することなく、このマシーンに乗れる。そして、たっぷりとノスタルジックな世界を彷徨するのだ。
帰ってきた時に、二度と開かない愛おしい世界の扉を嘆くよりは、この現代に未練がたっぷりあることにも気がつく。


某駅にあるはずのない地下三階。今自分を見上げているのは未来に出会うはずの犬。確実な予言のような新聞の記事。などなど、書きだしているだけで、物語の喜びが蘇ってくる。


いちばん好きなのは『世界最初のパイロット』
南北戦争の最中に、北軍の兵士二人をのせてプロペラ飛行機が飛ぶのである。90年後のスミソニアン博物館の展示室から。
将校と兵士の掛け合いのとぼけた可笑しさ。進軍ラッパが吹き鳴らされる。
そして、初めての飛行の場面は、まるで自分の身体が宙に持っていかれるような高揚感に、わくわくした。なんとおおらか。
それでも空軍はいらないのだという南北両将軍の談が心に残る。
「もし空軍というものができれば、必ず、爆弾などを落として殺し合いを始めるにきまっとる。そして、一度それをやりだしたら、そのために支払う犠牲は莫大なものになろう」