『ねこもおでかけ』 朽木祥

 

挿絵の猫が生き生きとして、ほんとにかわいい。
仁王立ちして、寝転んで、じゃれついて、何かに頭を擦り付けて、絵なのにちゃんと生きてる、弾んでる。
ふわふわの毛の奥の温かな弾力が、この手に伝わってくるようだ。


虎猫トラノスケは、まだ子猫だったとき、信ちゃんの家族に加わった。
新しい家族を迎えるということは、それぞれ(もちろん犬も)の気持ちを改めて考えることだった。これまで考えなかった家族の思いに気がつき、寄り添うことでもあるのだなあ。


巻末の「みなさんへ」のなかで作者は、「ねこたちが町内をきげんよく歩いていたころのことを、なつかしく思い出します」と書いている。
ほんの少しだけ昔、猫は家の内外を自由に出入りしていて、それが普通だった。だけど、いま、猫の安全を思えばそれはできない。
「ねこたちが自由に歩きまわれた町は、子どもたちにとっても幸せで安全なところだったように思うのです」
と作者は書いている。


トラノスケは、家のなかにじっとしてはいない。好きなときにおでかけして、好きな時に帰ってくる。
ある時、信ちゃんは外でよそ行きの顔(?)のトラノスケにばったり出会って、トラノスケは、自分の知らないところで、どんな「ねこのご用」をしているのだろうと思う。そして、こっそりあとをつけていくことにしたのだ。


大人だって子どもだって、動物だって、家から出れば、外の世界のご用があって、付き合いも生まれる。時には家族も知らないつきあいが。
いいなあ、と思うのは、そうしてトラノスケの外でのご用や付き合いをあるがままに信ちゃんが受け入れていること。
信ちゃんにとってトラノスケは自分にしばりつける「ペット」ではなくて、自分の知らない顔も持つ「友だち」なのだ。
そうして変幻自在な大きな輪ができていくよう。
ここでは空気の温度も変わっていくようで、幸せな気持ちになる。
すずがちりんと鳴って、うれしい不思議も起こっている。


信ちゃんの家のかかりつけ動物病院の壁に貼られたポスターには「みーんなトモだち」と書かれていて、最初は犬と猫の絵がついていた。病院に行くたび、絵の中の動物が増えていく。
ポスターの動物たちみたいに、信ちゃんとトラノスケのまわりも友だちがふえていく。世代も種族も越えて。なんて嬉しい。
猫も子どもも自由に歩き回れる町は貴重で、本当に幸せな町なのだと思う。


これは『もうすぐ雨に』のトラノスケと信ちゃんの出会いの物語。