『パレスチナのちいさないとなみ』 高橋美香、皆川万葉

 

イスラエル占領下のパレスチナ自治区の暮らしについて、2019年に書かれた本である。簡単な歴史なども書かれている。
二人の著者は、長い間パレスチナの人々の間に入り、さまざまな形で支援し続けてきた。
初心者にもわかりやすく書かれた本は、複雑で難しいことを理解する自信がない私を(背景の解説とともに)まずは、そこに暮らすひとりひとりと引き合わせてくれた。


パレスチナ自治区」は、分離壁イスラエルから隔てられていた。電気と水をイスラエル側におさえられた状態で。
「『自治』という名前だけ与えた実質の占領状態という中途半端な現状がイスラエル政府にとって都合の良い状態」なのだそうだ。


ここで暮らす老若男女の笑顔の写真に見いる。家畜小屋やオリーブ畑で働く人びと、床屋、漁師、荷運び、キャンディー屋にクナーファ屋、かまど焼きのパン屋、それからそれから、もっと沢山……
日本にいる私にとっては、なじみのない仕事が多くて、文化の違いにへえーと驚く。笑顔の人々の後ろは、牧歌的な山村の風景、賑やかな市街、そして深呼吸したくなるような真っ青な空だ。
だけどここでカメラに笑顔を向ける人たちの暮しは、どん底だ。

 

電気も水も引かれていない山の上で家畜を追って暮らす遊牧民の夫婦は、故郷を遠く離れてここにいる。違法建築として、当局に故郷の家や家畜小屋を破壊されてしまったから。
こちらの漁師は、ガザ地区封鎖のため、船の燃料を得ることもままならず、漁をできる範囲も狭められたそうだ。許可されたわずかな海域でさえイスラエル海軍の攻撃(実際亡くなる漁師は後を絶たない)を警戒しなければならない。
パレスチナ自治区内というのに、「入植地」が建設される。ある建設作業員は、もともとこの地の住民だった。自分の家があったところで(奪われた場所で)入植地建設に従事している。子どもを養っていくために、他に選択肢はなかった。
難民キャンプからイスラエルの農場に「出稼ぎ」に行く女性は、朝三時に起きなければならない。遠い場所ではないのに、検問所を通過するために、労働・通行許可証をもって長い列に並ばなければならないからだ。勤務地のすぐ近くにある祖父母の土地に寄ることはこの許可証では許されていない。
まだまだ、これらはほんの一部。


イスラエル軍需産業は武器輸出にあたり、パレスチナ攻撃・占領で培った技術を「実戦で使った」とアピールしているそうだ。


こうした酷い積み上げの先にある、戦争というより一方的な虐殺に思える現在。ここに何かしらの大義やら口実をくっつけて憚らないのは、すごく気持ちが悪い。
笑えない現実をブラックユーモアを交えて笑い飛ばしてきたあの人この人、いまはどうしているだろう。