『秋の四重奏』 バーバラ・ピム

 

四人の男女、エドウィン、ノーマン、マーシャ、レティは、ある会社の同じ部署に勤務する同僚だ。四人とも六十代独身で、定年を間近に控えている。


定年になったら、どんな暮らしをしようか。様々なプラン(プランなしも含めて)は、その時になったら、思っていたようにならないことに気がつく。
性格も暮らし向きも違う四人それぞれを主人公にしながら、(元)同僚として適当に互いのことを気にし、絡みつつ、狂想曲のような物語は進む。


ばたばたしているけれど、にぎやかではない。物語には、曇天の空の下を歩いていくような閉塞感がある。
仕事を引退したら第二の人生が待っている、というが、その実体は、確実にやってくる死までの隙間をどのように埋めるか、という問題への取り組みだった。
同世代の彼ら(そして私自身も)は、本人が認めようが認めなかろうが、高齢者、という括りで捉えられる一群の仲間入りをしてしまったのだ、ということに気がついて、なんとも言えない寂しさと不安が押し寄せてくる。
物語は、とっかえひっかえ、形を変えながら、それぞれの寄る辺ない孤独を顕わにしていくようだ。
そうはいっても、(例え、惨めに見えても、滑稽に見えても)手さぐりでこれからの暮し方を模索し、何かと葛藤し続ける四人の姿には、ひたひたと愛おしさがわきあがってくる。


特別な盛り上がりがあるわけではない。物語は静かなのだ。だけど、読んでいるうちに、曇天と思っていた空の色は、折々(無限に)変わっていくものだ、と気がつき始める。
「奇跡というのは果てしないものさ」「少なくとも人生には無限の可能性がある」という言葉がいいな。
人生には、そのときどき、いくつもの区切りがある。それでも、人生は細切れというわけじゃないよね。どこまでも繋がっている。