『博物館の少女 騒がしい幽霊』 富安陽子

 

上野の国立博物館内にある怪異学研究所に勤める花岡イカルは、13歳という若さながら骨董や美術品の目利きである。というだけではなく、本人に自覚はないが、目に見えない怪異にも目利きであるようなのだ。
今回は、依頼により、陸軍卿の大山巌と捨松夫妻の屋敷で起きているポルターガイスト現象を調査するため、イカルは大山家の前妻の娘たちの家庭教師として、屋敷に日参することになる。
さて、ポルターガイスト現象の正体は……。


怖いのは人の悪意によってひき起こされた種も仕掛けもある事象か、この世に現れた異界のものの念が引き起こした事象か。
こんがらかった糸を、ハラハラしながらほどいてみれば、それはほんとうに一本の糸だったのだろうか。


イギリスで教育を受けた捨松の、女子教育への理想と、それを阻むこの国の女子教育の現実、世間の冷笑。しなやかに毅然と立つ捨松はかっこいい。
素直でお行儀よく見える大山家の娘たちが心の奥に隠している、誰にも言えない秘密。
捨松に心酔しながら、娘たちの気持ちに寄り添うイカルの柔らかさ、落着き。持ち前の明るさとともに、また彼女の新しい魅力をみつけた。


イカルの後見人・登勢の言葉ではないが、イカルは人に恵まれている。それは確かにイカルの才能なのだろう。
イカルを見守る様々な大人たちに混じって、彼女の友人たち--絵師・河鍋暁斎の娘トヨ、トノサマ(怪異研究所長)の奉公人アキラの、生い立ちや、思いなど、その姿が、前作より深く掘り進められてきて、イカルの成長とともに、こちらの二人の去就にも注目している。


怪異学研究所はなぜ、古今の怪異を集めているのか。トノサマは語る。
「博物館に集められているのは、この世のかけらなのだ。わしらは、その小さなかけらを手がかりに、世の中を知ろうとする。この世がどのようなもので形作られ、どのような理で動いているのか? そんな答えのない問いを問いつづけるのが人というものだ」
を念頭に、「怪異もこの世を形作るかけらの一つ」という。それはきっと民話や物語にも当てはまる。


明治16年ごろの上野界隈の明るい活気が、主人公イカルの気性と通じ合う。
秋の終りから年が明けるまでの物語。物語の終りには、あちこちから、少し早い春の匂いが、色が、滲み出てくる。