『死への旅』 アガサ・クリスティー

 

優秀な科学者が次々に失踪するという事案がヨーロッパ各地で起こっている。イギリス情報部は、ある秘密結社の陰謀とみている。
失踪中の物理学者を追って妻のオリーヴが、イギリスを発ってカサブランカに向かうが、あっという間に飛行機の墜落事故で、亡くなってしまう。その後、イギリス情報部の指示で、外見が彼女とよく似た(自殺願望の)ヒラリーが、オリーヴに成りすまして旅の続きをする。


オリーヴの行き先は本当に夫のところだったのか。彼女の旅に手を貸していたのは何ものだったのか。
また、死に瀕したオリーヴの最後の言葉をヒラリーは聞いているが、それは何を意味するのか。
目的地不明の五里霧中の道、会う人会う人、みなあやしく見える。ひとつだけわかっているのは最後に出会うのがオリーヴの夫だとしたら(たぶんそう)、そのとき自分の正体がばれるのだ、ということ。


アガサ・クリスティーの冒険ものでは、これまで何度も秘密結社がらみのものを読んできたが、どの物語でも、外から果敢にアタックするものの、敵は容易に全体象をみせてはくれなかった。
今度の物語は、割合すんなりと敵の本拠地に潜入していく感じ。
心許せる人がいない豪華な牢獄の身の置き所がないくらいの息苦しさが伝わってくる。
問題はここからどのようにして脱出するか、皆目けんとうがつかないこと。
つまり、これは潜入ではなくて、囚われじゃないか(と、いまさら)


最後には、まさかそんなことが、のオンパレードで、びっくりしっぱなしだったけれど、一部、あそこまで行ってなぜ、と納得出来ない部分もあった。現実の世界が目を瞑っているものに比べれば、可愛いくらいなのかもしれないけれど。
死にたがりのヒラリーが冒険の間にどんどん元気になっていくのは楽しかった。彼女には、これからも元気でいて欲しいな。きっと大丈夫、と思うけれど。