『死の猟犬』 アガサ・クリスティー

 

 

クリスティーによる幻想怪奇をテーマにした16の短編集。
以前に読んだ『ハロウィーン・パーティー』や『ホロー荘の殺人』など、本格ミステリであっても、目に見える事実によりそうように、あるいは包みこむような感じで、不思議な、この世ならぬ気配が存在するのを感じたことがあったので、こういう作品集もありなんだなあ、と思った。
幻想メインで、ミステリが後ろに下がったような感じだ。
幻想怪奇ではあるけれど、血が凍るような恐ろしさはないし、残酷な描写もない。
ああ、こんなところに置いてきぼりにされてどうするの、と思うような終わり方もあったけれど、どちらかと言えば、気持ちよく読み終えた作品のほうが印象に残っている。


霊媒が出てくる。幽霊屋敷が出てくる。予言もあるし、憑依もあるし、逃れられない運命もあった。
そういうテーマだから、どんな不思議が起こってもおかしくないのだ、と読んでいれば、まんまとひっかかったわ、たねもしかけもあったのだわ、というのもあるから、油断はできないのである。
どちらかといえば、たねもしかけもあるほうが、わたしは好みかな。
ミステリがメインで、背景のどこかにぼんやりとなにかの気配が漂うくらいのが読みたいのだ。


ある霊媒師を動かす霊は、日本の霊だった。
ある美しい女性にあった人は、彼女に強い魔力を感じる。彼女には東洋の血がまざっている。
などなどの描写にいちいち立ち止まる。
……この作品集が世に出たのが1933年ということで、このころの東洋は、イギリスからは、相当に怪しい国にみえたのだろうか、と考えている。