『絵本力』 浅木尚実

 

携帯電話やパソコンなしの生活は考えられない現代だ。今は小さなこどもたちも、やがて、便利なテクノロジーの波に乗っていくのだろう。
あえて手間のかかるアナログな作業をこの乳幼児期に持ち込みたいと思うのは、こんな時期は瞬く間に過ぎてしまうし、二度と戻ってこないからだ。
子どもと一緒に絵本を読む、膝の上にのせてときどき揺すりながら。それは、絵本を読む大人にとっても至福のときであるけれど、子どもは、読み手の大人の想像をはるかに超える何かを育んでいるようだ。何かとは、具体的に何なのだろう。
この本は、乳幼児の発達の特徴を踏まえながら、絵本は、なぜ子どもの育ちに必要なのか、どんな力があるのか、理論と実践とで解いていく。


著者は、かつら文庫(石井桃子さん主宰の)や東京子ども図書館で、子どもと絵本とをつなぐ仕事をずっと続けてきた。現在は保育士養成課程の大学で、保育士を目指す学生たちを指導している。家庭では、母として祖母として、小さな子どもたちが絵本と戯れる様子を身近に見守ってきた人だ。


四つの章の理論編とともに家庭のなかでの実例、そのあとには実践編として、保育園や幼稚園での子どもと絵本のかかわりの様子が細かにレポートされている。わたしはそれらを読むのが本当に楽しかった。
ことに幼稚園などで読まれる絵本が、子どもたちの集団遊びや生活のなかで、大きく膨らんだり変化したりしていく様子に引き込まれた。
「子供たちの興味や関心の方向性は時として斜め上に行くということにも改めて気づかされた」などの感想を書かれる先生がたの文章から、子どもと絵本を読むことを心から楽しんでいる様子が伝わってくる。
本を読んであげる、というよりも、読み手も聞き手も一つになって一緒に楽しんでいる感じが素敵だった。羨ましいくらいに幸せな教室、幸せな子どもたち、と思った。


この本は、絵本のガイドブックではないけれど、取り上げられた絵本は、簡単な紹介文とともにカラーで書影が載っていて、絵本探しの参考にもなる。わたしは、小さな孫と読みたい絵本を幾冊もメモした。
本を閉じた後にも楽しみが待っているのがうれしい。