『黄色い老犬』 フレッド・ギブソン

 

1960年代。テキサス州の山地に暮らす開拓者の一団が、それぞれわずかな牛をひとまとめにして六百マイル離れた家畜市場に追っていく。往復で数か月の旅になるが、牛を売って現金を手に入れるためだ。
14歳になるトラヴィスは、出掛けていく父に、一家の主として、お母さんや五歳の弟に気をつけてやり、父がしていたように家の仕事をすることを約束する。
少年の責任感と誇らしさ、微かな心細さが伝わってくる。


ラヴィスは森に猟に行き家族のために肉を確保し、野に放たれた牛たちや、森に散らばった野豚たちをまとめた。トウモロコシ畑に侵入する野生動物たちを追い払い、家を守った。
大自然のなかの一軒家に暮らすことの難しさ厳しさを何度も見せつけられながら、それ以上におおらかで豊かな暮しに、ほうっとため息をつく。


ラヴィスの脇にはいつも黄色い老犬オールド・イェラーがいた。
イェラーはある日、ぶらりとトラヴィスたちの丸太小屋に現れた。みっともない痩せ犬で、一家の冬の食料にするため吊るしておいた鹿肉を一頭分まるまる食べてしまう、という挨拶付きで。
その後、家族と暮らすことになったこの犬は、絵に描いたような忠犬ではない。家族のために命を張るが、その一方で、犬がこの家族を主人と思っているかといえば、どうなんだろう。小狡くて、胡散臭いくらいに奔放だ。


最初のページで、後にこの犬は少年の手で殺される運命にあることを知らされる。実際にどういうことが起るのか、途中から薄々わかってくるのだが……。
大自然の中で、少年は急いで大人にならなければならない。
あまりに残酷な方法で、と思うが、むしろ大切なのはその先なのだろう。このうえなく悲痛な場から、喜びの種を見つけ出し、育てようと思えたとき、彼は大人になったのだ。