『スタッフロール』 深緑野分

 

第一部の主人公は、マチルダ。1946年生まれで、幼い時の印象的な体験をきっかけにして、彼女は、ハリウッドの特殊造形師をめざす。彼女が四十歳になる1986年までの半生の物語である。


第二部の主人公ヴィヴは、1987年頃の生まれ。ロンドンの、エフェクトハウスと呼ばれるスタジオの、才能のあるアニメーター(CGアーティスト)だが、今は少し自信を失っている。2017年という一年間の、彼女の成長を描く。


華やかな映画界の裏方、縁の下の力持ち的な場所にいる人々の物語だ。マチルダやヴィヴの仕事は、映画のキャラクターの造作の担当で、映画の要でもある。
伝説になるようなすごい造形師たちも次々に出てくるが、俳優たちと違って、その名前が、一般の人たちの目に留まることはあまりない。映画の終わりに流れるスタッフロールに彼らの名前がクレジットされることは稀だ。


戦後の映画史を浚うように、たくさんの映画のタイトル、監督の名前が出てくる。その映画や監督が映画界に遺した足あととともに。
母娘ほどに歳のちがうマチルダとヴィヴは、アナログ時代とCG時代、二つの時代の代表選手のようだ。
彼女たちの生き方を描き出すことにより、とかく比べられ、対立しがちなアナログとCGとが、近づきになっていくようだ。


主人公は、頑固で一途な職人だ。不器用だと思う。この道を究めるために、なりふりかまわず、ただ、夢中で走ってきた。その道が先細りになり、代わりに、古いものの上をいくような新しい道が出来上がっていたとしても、新しいほうに簡単に乗り替えることなんてできない。
こういうことって、他の分野でも、きっとある。こういう人はたくさんいるはず、と思う。


ふたりの女性の生き方、彼女たちのまわりを跳ねまわっているかのような、映画のなかの不気味でちょっとかわいいキャラクターや、神話の中の逃げた神のエピソードなどが、影になり日向になりして、現実の世界で葛藤する人びとに寄り添っているように思える。


第一部と第二部は、一見全く別の物語のように見えるのに、二つの物語が、思いがけない繋がりを見せ始め、気がついてみれば、しっかりと噛み合った、大きな一つの物語に、大きな「居場所」になっていく。その仕掛けに、ああ、と声をあげて驚いているうちに、エンド。スタッフロールが流れてくる。力いっぱいの拍手を送りたい。