『グッゲンハイムの謎』 ロビン・スティーヴンス

 

自閉症の少年テッドが姉のカットとともに、従兄サリムの失踪事件を解決したのが、前作『ロンドン・アイの謎』(シヴォーン・ダウド作)である。
作者ダウドは、『ロンドン・アイの謎』の続編として、『グッゲンハイムの謎』というタイトルを用意していたが、物語が書かれる前に亡くなってしまった。
これは、ダウドの遺志を引き継いだロビン・スティーヴンスによる続編である。
巻末の、ロビン・スティーヴンスによる謝辞は、ダウドへの感謝の言葉で結ばれている。
「テッド(主人公)をわたしに貸してくれてありがとう。この本を気に入ってくれるとうれしいです」


物語は、前作から一年後。ロンドン住まいのカットとテッドの姉弟は、ニューヨークに、グロリアおばさんと従兄のサリムを訪ねる。
みんながグッゲンハイム美術館(グロリアおばさんの勤務先)来館中に、カンディンスキーの作品『黒い正方形のなかに』が何者かに盗まれてしまう。
警察は、揃った証拠から、グロリアおばさんを犯人として逮捕する。おばさんの無実を証明するため、三人の子どもたちは、真犯人と消えた絵とを探して、マンハッタンを駆けまわる。美術館を浚い、人に会う。
起こったことの可能性をリストアップして、一つずつ丁寧にあたっては潰していくという地道なミステリだ。


カンディンスキーの『黒い正方形の中に』についてテッドが考えることが、私は好きだ。
光の三原色(赤・青・緑)を混ぜると白い光になることを、カンディンスキーは意識していたのではないかと。
「重なれば重なるほど、円は暗くなるのではなく、明るくなっていくように思えた」
光の三原色は、三人の少年少女に重ならないだろうか。


テッドも、サリムもカットも、それぞれに特性がある。お互いの凸凹をフォローし合いながら、事件の真相に迫る。
子どもたちが、過保護な母親の信頼を勝ち得、自分の進路を目指して、一歩を踏み出すための鍵を手に入れる冒険にもなっている。
この世にたったひとつしかない芸術作品に対する理解が、この世にたったひとりしかいない、かけがえのないあなたや私への理解につながっていくのも気持ちがよい。
物語の最後の言葉が素敵だ。
「ぼくはテッド・スパーク。ぼくは、ぼくでいられてうれしい」
この言葉で読み終えることができて、わたしもうれしかった。