『こびん』 松田奈那子

 

一人の子どもが手紙を小びんに入れて海に流した。
小びんは波に揺られながら何日もかけて、遠い浜辺の誰かに手紙を届ける。
受け取った誰かも、手紙を小びんに託す。そしてまた……
この絵本の語り手は、この小びんだ。


海に出ていく小びんは、「たいせつなものを、あずかったよ」といいながら、ゆられていく。小さなびんの大きな矜持だろうか。
長い長い一人旅を、小びんはさびしくないって言う。だって、「ぼくのなかには、……」
たいせつなものってなんだろう。小びんはほんとうは何を運んでいたのだろう。


流れ着いた小びんをうけとった誰かは、蓋を開ける。そうすると……
「……うたごえがきこえてきた」
「……たのしそうな わらいごえが、ころがりでた」
「……じんわりと ねつがひろがった」
……
手紙には何が書かれていたのかわからないけれど、それよりも、手紙を書いた人の気持ちがうれしかった。うたごえやわらいごえや、冬の夜を温めてくれる熱に包まれたような気持ちになった。
手紙を受け取るうれしさって、そういうものを受け取ることなのだね。
手紙を受け取った人は、ほかのだれかに手紙を書く。でも、書きたいと思うまでにも、書き始めるまでにも、それから書き終えるまでにも、長い時間が掛かる。その時間が手紙といっしょに、小びんのなかのうたごえやわらいごえになっていくのだろう。(始まりのこどものその後が描かれているのを発見。ほんとうに長い長い時間が過ぎたのだね)


時間をかけて、手紙が手許に届く。大切に運ばれてきた手紙の、紙に書かれた文字のあいだから、「たいせつなもの」があふれてくる。
こんな手紙を受け取ったら、どんなにうれしいだろう。いつか私もこんな手紙で、誰かを喜ばせることができたら、どんなにうれしいだろう。
てがみを大事に運んでくれる人にも、心を込めて、ありがとうっていいたい。