『コカチン 草原の姫、海原をゆく』 佐和みずえ

 

17歳のコカチン姫は、他国の王のもとに輿入れするため、一年半をかけて、海を越え、砂漠を渡っていく。政略結婚である。
船が海賊に襲われたのをかわぎりに、寄港地ごとに、次々と不思議な出来事に出会う。夢を見ながら延々と眠り続ける領主、巨大な花をつける蔓、人の女の頭を持つ鳥、亡霊の呼び声……。
不思議な出来事に翻弄され、苦しみ悩む人びとを救うため、自らすすんで危険に飛びこんでいく無鉄砲で一途な姫に、手を焼きながらも守り通そうとする随行者たちも魅力的である。
ロマンスなども(期待どおりに)花開き、花開いたからには、先行きが気になり(というか想像やら推測やらで先行きを占い)わくわくと楽しんだ。


冒険ファンタジーだけれど、コカチン姫というのは、元の皇帝フビライ・ハンの愛娘で実在した人物だそうで、イル・ハン国(現在のアフガニスタンパキスタンのあたり)のアルグン王のもとに輿入れしたのも事実だそうだ。
長らく元の皇帝に仕えたマルコ・ポーロが、姫の輿入れに随行したのも事実だという。


モンゴルの草原で伸びやかに育てられた姫は、馬も弓も上手。自分はだれのもとにも嫁がないと決めていたのに、イル・ハン国からの使節団のひとりに見初められ、アルグン王の妃にと望まれた。
自分の運命を自分で決めることのできない姫は、一時は悲観しながらも、顔をあげていう。
「……勇気をもとうと思います。ただし、運命に従う勇気ではありません。運命を切り開く勇気です」
その言葉どおりの道行きになったわけだけれど、姫の言葉も行動も、ともに、これから長い旅を始める人たちへの、なんと清々しいはなむけだろう。
ほっと溜息をついて、気持ちよく本を閉じながら、コカチン姫のその後の消息を知りたいものだと思っているところである。