『海辺の宝もの』 ヘレン・ブッシュ

 

『ライトニング・メアリ』に続いて、メアリー・アニングの少女時代の物語をもう一冊。
メアリー・アニングは、1799年生まれのイギリスの化石採集者。
メアリーは、重要な化石をいくつも発掘し、地質学の世界では名の知れた研究者だった。
彼女が暮らす海辺の町ライム・リージスは化石の宝庫で、幼い頃に父さんから化石採取の方法を教わった。
大好きな父さんが亡くなったあとは、兄のジョゼフと協力して、父さんが本業の片手間にやっていた化石売りの店を引き継ぎ、さらに充実させて、家計を助けるようになる。
クライマックスは、やはり、彼女の名前を一躍有名にした12歳のときの大発見だろう。


『ライトニング・メアリ』を先に読んでいたせいか、こちらのメアリーはマイルドだと感じた。(メアリーのまわりの人たちもみな優しい)
メアリーの店を訪れた大英博物館の科学者の言葉、
「きみは、われわれ科学者の優秀な助手になれるんだ」
に、メアリ―は、ぼうっとなる。
「自分のようなただの女の子が、科学者のようにえらい人たちのお役にたてるなんて!」
だけど、先に読んだ『ライトニング・メアリ』のメアリがもしも、こんな言葉を聞いたら、どんな顔をしただろう、と思う。ライトニング・メアリの苦虫をかみつぶしたような顔が目に見えるようだ。
助手。実際、この時代の貧しい女の子に、それ以上は望めなかったのだろう。たぶん、これは、最大限の大きな成功の約束なのだと思う。


訳者あとがきによれば、この物語は1965年の出版以来、世界じゅうの少年少女に夢と励ましをあたえてきたそうだ。
きっとそうだろうと思う。
ずんずん道を切り開いていくメアリーの姿は、読んでいて気持ちがいい。
作者自身が古生物や地質学の専門家であるそうで、メアリーが抱く化石がらみの疑問に対する答え(その時代にわかっていたことやいないことなど)が、丁寧に書かれていて読みやすい。


メアリー・アニングについては、資料が少なく、わからないことがたくさんあるのだそうだ。
だから、百人の作家が書いたら百人のメアリーが生まれるのだろうが、どの部分に光を当てるのか、何を伝えるのか、ということで、ここまで違う人物ができあがるものなのか、と面白かった。