『ライトニング・メアリ 龍を発掘した少女』 アンシア・シモンズ

 

メアリ・アニングは、1799年生まれのイギリスの化石採集者で古生物学者
メアリは、重要な化石をいくつも発掘し、地質学の世界では名の知れた研究者だった。にもかかわらず、彼女の発見は、他の男性の手柄となって、そこに彼女の名前がつけられることは一度もなかった。(メアリの意見を聞きたいとやってくるロンドンやオックスフォード、ケンブリッジの研究者たちは、「ただで」彼女の知識を引き出しはするが、決して彼女を自分たちの仲間にしようとしなかった)
メアリの身分が低く貧しいこと、女性であることが、理由だった。
物語の中で、メアリはこんな風に言う。
「競走に出場しようと並んだとたん、あなたは貧しいから二歩下がりなさい、父親が国教徒じゃなかったからもう二歩下がりなさい、それから、男じゃないからあと十歩下がりなさい、と言われたような気持ちになったのだ」


この物語は、メアリ・アニングの少女時代をモデルにして書かれている。(ナポレオン率いるフランスとイギリスが戦っていた、そういう時代である。)


彼女のことを、ライトニング(稲妻)メアリと呼んだのは、父と、親友のヘンリー。それぞれ別の理由だったけれど、二人とも、メアリのことを誰よりも理解していた。
メアリの村、ライム・リージズの海岸は、石灰岩と泥板岩の地層で、化石が多く発掘された。
メアリに化石を掘り出すことを教えたのは、家具職人の父だった。メアリはたちまちこの仕事に魅了され、もって生まれた能力を開花させることになる。
そして、メアリ・アニングの名前をその世界の第一人者たちの間で一躍有名にした大きな発見・発掘にいたるのだけれど、それが、わずか12歳のときの事であったことに驚いてしまう。
まともに学校に行ったこともない彼女が、その知見にいたる困難な道を、独自の方法で切り開いていくこと、緻密に積み上げていく過程は、専門の教育や訓練を受けた大人であっても大変な仕事ではないだろうか。これらを全部、12歳の少女が手さぐりしながら、やったのだ。


メアリは決して弱みをみせない。事実しか話さない。人当たりはきつく、まさに稲妻のようだ。
対照的なメアリの盟友ヘンリーやエリザベスの穏やかさは彼らの階級からくるものかな、と思うと、メアリのきつさが、大波に攫われまいと必死に大地にしがみついているように思える。
ヘンリーもエリザベスも将来の夢を希望を持って語るが、貧しいメアリには夢など見ている余裕はなかった。「夢を見るのは、大ばか者か眠っている人だけだ」


メアリは将来に夢なんかもっていない。
ハッピーエンドじゃなくてもいい、せめて、何か幸せの片鱗に向かう道が示されたらいいのに、と思ったら、裏切られるかもしれない。
「わたしたちのような人間に幸せは来ない」という言葉が鮮烈に心に残る。
人生(のどこかに、わずかでも)幸せを求めるなら、きっと別の生き方があったはずだ。
この道を行く限り、それは望めないことを、メアリは知っている。それでも自分の道はほかにどこにもない。
半端ではない覚悟は、ハッピーエンドをはるかに越えている、と思うのだ。