『ブラック・コーヒー』 アガサ・クリスティー

 

クリスティーによる戯曲『ブラック・コーヒー』と『評決』の二編が収められている。どちらの作品も、舞台は最初から最後まで変わらず、同じ部屋、同じ家具の配置のなかを、限られた十人前後の人間が出入りしながら、物語(?)が進行するが、ちっとも狭さを感じなかった。
戯曲、おもしろいな。


『ブラック・コーヒー』
ある科学者が、家族や客人たちの前で毒殺される。
殺される少し前に、彼は、新発明の原子爆発の方程式を、この部屋のなかにいる誰かに盗まれた、と告げる。その件で、もうすぐ、ここに私立探偵エルキュール・ポアロが到着する、と。
誰が犯人なのか、殺人がどのように行われたのか、そして、読者(観客?)はどのように目を眩まされたのか。
初めて読む戯曲仕立てのポアロもの。何度も舞台配置図を見返しながらのゆっくり読書だったせいもあり、ぼんやりの私でも、わりと楽に犯人に到達できたと思う。
あと味もすっきりと悪くなく、おもしろかった。


『評決』
ある大学教授の居間で起こる殺人事件。
登場人物たちの性格や立場、経歴などがはっきりしてきたところで、事件が起こる。
犯人が誰なのかも、どのようにして被害者を手にかけたかも、明るいライトの下で観客は見せられる。犯人は誰の目にも見えている。
さて。
目を離せないのはここから。語りあうほどに明らかになるそれぞれの胸の内だけれど……。
表立った動きはほとんどないのに、この張りつめた空気ったら。
最後の最後まで気が抜けない。
目の前で、今まで培ってきたはずの価値観がひっくり返されていくような……。茫然とするような……。いえいえ、むしろなんと爽やかな!

「あなたは人間を考えるより先に観念を優先させる」
アガサ・クリスティーのミステリというよりも、別名義メアリ・ウェストマコット(純文学系?)っぽいかも。

だけど、最後の数行のあれ。あれがよくわからない。いいのだろうかな。