『ネコとクラリネットふき』 岡田淳

 

 

「そのネコが
 ぼくのところにやってきたのは、
 あるよるのことです」
から始まって、
「よのなかで いちばんすてきなのは
 ネコといっしょに くらすことです」
で終わる絵本。
だけど、この「すてき」は、ただものではないのだ。


その夜、「ぼく」の家のドアの前に座っていたのは、ごく普通のネコだった。
家にいれて、ミルクとあじのひものをだしてみたけれど、ネコはちっとも食べようとしない。


「ぼく」は、まいばんクラリネットの練習をする。その夜も……。
そうすると……
ご飯を食べようとしないネコは、「ぼく」がクラリネットをふき終わると、少し大きくなっていたのだ。げっぷまでしている。
毎日毎日、クラリネットをふくたびに、ネコはどんどん……


小さなネコと暮らすのはすてきで楽しい。
少し大きいネコと暮らすのもすてきで楽しい。
もっと大きいネコと暮らすのもすてきで楽しい。
もっともっと大きいネコと暮らすのもすてきで楽しい。
次のページで起こることが待ち遠しくなる。
大きくなればなるほど、すてきも楽しいも、ダイナミックになっていくようだ。


ページを繰りながら、私はちょっと心配してしまう。これ以上大きくなったらどうなるの?
だけど、「ぼく」はちっとも心配しない。
何より、どんな大きさのネコにも「ぼく」は驚かない。家が壊れてしまうほど大きくなっても、「ぼく」は大きすぎるなんて思わない。
あるがままを受け入れて、「ぼく」とネコの暮らしは、ますます、すてきになっていく。
クラリネットをふく「ぼく」と、大きな大きなネコ。
他に何が必要なんだろう。
気持ちが開かれていく、晴れやかに。


本のなかから聞こえてくるのはラヴェルの『ボレロ』かな。モーツァルトかな。それとも、『クラリネットを壊しちゃった』かな。
なんて豊か。