『ねずみとり』 アガサ・クリスティー

 

この戯曲は、メアリ女王の八十歳の誕生日を祝うために、もともとラジオドラマとして書かれたものを、舞台化したものだそうだ。
巻末の宣伝文には、
「カーテンコールの際の『観客の皆様、どうかこのラストのことはお帰りになってもお話にならないでください』の一節はあまりにも有名」
とある。
ミステリだもの、ラストを話さないで、というのは当たり前のことと思うが、わざわざこのような断りをしたくなるわけを、戯曲を最後まで読んで納得した。


新婚の若夫婦がゲストハウスを始めた。
五人の客を迎えて、今日がオープンというのに、館の外は大雪で、すっかり閉じ込められてしまう。
そこへ、昨日ロンドンで起こった殺人事件について捜査している警察が、スキーを履いた刑事を送り込んでくる。
犯人が犯行現場に残したメモに、このゲストハウスの名前が記されていたというのだ。


童謡『三匹のめくらのネズミ』のメロディに乗って、一匹目のネズミはロンドンで殺された。
犯人は、二匹目、三匹目を狙って、ここにやってくる(きている)のだろうか。
隠し事をしているのは誰だろう。みんな何かしら隠している。
仲の良い経営者夫妻さえも、今では相手がなにかを隠していることを知っている。
雪のため外界から遮断されたゲストハウス。電話線も何ものかに切られてしまった。


舞台は、ゲストハウスのホールである。
玄関や、階段室、図書室、応接室、台所から、人びとはここに集まり、ここから出ていく。
あかあかと火が燃える暖炉があり、大きな窓の下はベンチシート、部屋のあちこちにとりどりのソファやアームチェアが配されて、居心地のよさそうな部屋である。
それなのに、ここで繰り広げられる、腹の探り合いと誤魔化しとで、変なお祭りのようになっている。


ラストについては(もちろん、帰宅してもお話しませんが)品よく、すっきりとしたあと味で、さすが女王様への誕生祝いでした。