『雲をつかむ死』 アガサ・クリスティー

 

パリからロンドンへ向かう航空機の後部客室のなかで、殺人は起きた。
空に浮かぶ密室。
ポアロを含む(被害者以外の)10人の乗客と2人のスチュワードが容疑者もしくは参考人、ということになる。


飛行機が空港に着いてからの関係者たちの足取りが、ちょっとコミカルに描かれる。
殺人があった飛行機に乗り合わせたことにより、仕事に差しさわりがでてきたものや、その逆に、うまくいくようになったもの。
隠しておきたいスキャンダルが露わにになったもの。
恋がうまれたりもする。
犯人捜しよりも、ドタバタした人間関係がお祭りみたいで、群像劇を楽しむような気持ちで読んでいた。


コミカルに踊りまわる人びとのあいだで、ポアロは、かなり早い段階で、真犯人はあのひとだ、と気づいていたようだ。途中、予想外(予想通り?)の出来事も起こるけれど。
最後の種明かしに、言われてみれば、と驚いたり、いいや、それを使ってそのように行動するとは普通思わないよね、と自分を慰めたり。


だけど、やっぱり殺人事件が起きているのだ。後になってしみじみと思いを馳せるのは、徐々にあきらかになってくる被害者が関わった過去の出来事と、そこから生まれた不幸と。事件の影に見え隠れする、幸薄い人のことだ。