『黄色い星』 カーメン・アグラ・ディーディ/ヘンリー・ソレンセン

 

ナチスが起こした戦争の嵐がヨーロッパじゅうに広がり、デンマークコペンハーゲンにもなだれこんできた。
国王の宮殿にかかげられた新しい旗は「戦争や恐怖、さらに憎しみそのもののように、人びとの目にうつりました」
国王クリスチャン10世は敵の旗を降ろすように命じる。
ナチスの将校は、そういうことなら毎日新しい旗をかかげよう、旗をおろそうとする兵士がいれば銃殺する、と国王に告げる。
けれども、旗をおろすのは兵士ではなく国王自身である。その後、二度と旗は宮殿に翻ることはなかったという。
けれども、新たな試練が、ナチスによってもたらされる。
「命令! すべてのユダヤ人は、<b>黄色い星の印をどんなときでも</b>見えるよう、自分の胸にぬいつけなければならぬ!」
デンマークの人びとはふるえあがる。ユダヤ人を目の敵にするナチスによって、他の国でどんな怖ろしいことが起きているか、みんなよく知っていたから。
でも、もし命令を無視したら、この弱小国の国民が死ぬことになるだろう。
国王は考えに考える。
「ああ、星をかくすとしたら、どうしたらよいだろうか……」
その時、星空をみあげて、はっとするのだ。「なんだ、簡単なことじゃないか。……」
そして、どういうことが起きたかというと……


コペンハーゲンの上には暗雲に覆われた空がある。これから始まる暗い時代の、まだまだほんの始まりなのだ……
だけど、まちを行く人びとの晴れやかな表情を見ていると自然に笑顔になる。
「星をかくす」アイディアは小さいけれど、ひとつの勝利。
というだけではない。
これは、どんな信仰・信条をもっていようと、どんな地位にあろうと、まず、その前に、みんな、私もあなたも勿論、例外なく、(尊ばれるべき)ただの人なのだ、という確認であり、宣言なのだ、と思う。
「黄色い星」は、歴史や伝説、絵本の枠を超えて、世界中の、善良な人びとの誇らかな意志表明でもあると思う。


巻末の「作者からのメッセージ」によれば、この物語は伝説だという。
事実だったという、はっきりとした証拠を作者はみつけることができなかったという。
だけど、なぜ、こういう伝説が生まれたのか、といえば、
「このエピソードによりそうような事実もたくさん見つけました」
という作者の言葉どおり、この物語にこもるデンマークの人びとの思いが、事実以上の真実だったからだろう。


形状も生き方も違ういろいろな植物が集まった豊かな森を想像する。わたしも豊かな森の一部でありたい。