『オリーブの海』 ケヴィン・ヘンクス

 

オリーブは12歳で死んだ。交通事故にあって。
オリーブは、マーサのクラスメイトだけれど、ほとんど話したことはなかった。それなのに、オリーブのお母さんは、マーサのところに、オリーブの日記から破り取ったページを持ってきたのだ。「あなたが持っていた方がいい」と言って。
そこには、オリーブの願い事が書いてあった。
いつか小説家になりたいこと。いつか本物の海へ行ってみたいこと。そしてこの夏こそは、マーサときっと友だちになりたい、ということが書かれていた。
マーサは困惑する。なぜ、私なのだろう。そして、マーサ自身もいつか作家になるんだと決めていたことや、毎夏(今年ももうすぐ)祖母ゴッピーと過ごすため家族で行く海辺の家のことを思い出す。


12歳の少女の夏の海。
家族の中の子どもとして夏の海を楽しむところから、今、はみ出しかけているところ。
相手を間違えちゃだめだよ、とこっそり耳打ちしたくなるような、少し苦い初恋。
そして、老いていく祖母と心通わすこと。
祖母は、近々の死を予感させる。
愛する祖母の死の予感と、クラスメイトのオリーブの突然の死とがときどき混ざるでもなくマーサの意識にのぼってきて、苦しくなる。
だけど、この祖母、とてもいいのだ。12歳と87歳とが秘密をわけあうと、苦しい秘密もなんだか色を変えるようだ。


オリーブが生きていた頃、マーサは一度だって、まともに気にかけたことはなかった。どんな子だったかも思い出せない。
今、彼女は、オリーブを感じようとしている。いろいろな場面で。作家になりたいマーサは、物語を書き始める。主人公の名前オリーブは、マーサのクラスメイトのあの子であり、マーサ自身だ。まるで日記を書くように、まるで友だちへの打ち明け話のように、ゆっくりと筆は進む。


決して、きらきらと明るいばかりの夏ではなかったはずなのに、清々しい、と言ってもいいくらいの透明さを感じるのは、そこが夏の海だからだ、と思う。
海の色に、少し切ないような気持ちになるのは、これが、子どもの時代がほぼ終わっていく名残りの色だと思うからだ。
マーサが、内陸の自分の町に海を持ちかえろうとするところが好きだ。