『オンボロやしきの人形たち』 フランシス・ホジソン・バーネット

 

シンシアの古い人形の家とその住人の人形たちは、ぼろぼろで、子ども部屋の隅にありました。シンシアが新しい人形の家(ピカピカ城)と新しい人形たちをもらうと、古い人形の家は、肘掛け椅子の後ろに隠されて、ますますぼろぼろになり、オンボロ屋敷と呼ばれるようになりました。実際、もういますぐにでも燃やされるところでした。


オンボロ屋敷の人形たちは、おうちはもちろん、自分たちもあちこち傷んで(でも直してももらえず)オンボロだったけれど、陽気に楽しく暮らしていた。
「しんじられないかもしれませんが、この人形たちときたら、どんなことでも楽しんでしまうのです」
「しんぱいごとを気にかけて、寝床にもちこんで世話をやいて、牛肉のスープとおかゆをあげたりしたら、そのしんぱいごとは、いつまでも出ていってくれませんからね」
陽気で楽しい文章が続く。
心配事を寝床に持ち込んで世話をやく、という言葉、身につまされるものがある。夜中に考えてもしょうもないことをつらつら考えて眠れなくなってしまう我が身を振り返って。
いつ、家もろとも燃やされてしまうかわからない身の上を心配ばかりしていても仕方がない。


この物語の語り手は、妖精の女王で、彼女は、オンボロ屋敷の人形たちの陽気さが大好きで、なんとかして、こっそり助けてやりたいものだ、と考えたのだ。
人形たちも、人間たちも、そこに妖精がいるなんて、まったく気がついていないのにね。
笑う門には福来るって、ほんとうかもしれない。


1906年に、フランシス・ホジソン・バーネットによって書かれた小品、日本では、これが初めての翻訳とのことです。
バーネットの人生は、実際は辛いことの連続だったそうだから、
「私はこのお話が好きでたまりません(中略)書いているうちに、このぼろぼろの家に住む、威厳なんて欠片もない人形たちに夢中になってしまったんです。この子たちときたら、どんなことが起きても心配なんてしないし、どこのだれよりも楽しく暮らしているんですよ」
という言葉がしみじみと嬉しい。