『山のクリスマス』 ルドウィヒ・ベーメルマンス

 

山のハーマンおじさんから、クリスマスの休みにやってくるようにと、手紙が届いたところから、町の子ハンシの冬休みは始まる。
いえいえ、ほんとうは、その前。
学校の最後のかねがなると、教会の隣で、くだもの屋の屋台を出しているハンシのお母さんは、赤いリンゴをひとつ、小さなコンロの中にいれるのだ。ハンシが帰ってきた時に、コンロのリンゴが歌をうたっているように。
温かくて美味しそうな匂いと、楽し気な音とが、これから始まるおやすみの楽しさの前奏みたいだ。


お母さんを残して初めての一人での遠出に、出発の時にはハンシは少し泣きたくなったけれど、山には楽しいことがいっぱいだ。
従姉妹のリーゼルと二人で、アマリ―おばさんを手伝って焼き菓子を作ったこと。
大きなお団子が入ったチロル風のスープのおいしさ。
犬のワルドルにスキーの楽しさを教えようとして失敗したこと。
食べものが乏しい冬山の鹿のために、定期的なエサやりに行くおじさんについていったときのこと。
そして、クリスマスの深夜礼拝のあとには、あっちの峰にもこっちの峰にも、教会から帰っていく人たちのカンテラの灯が続いていたこと。
まだまだ喜びがいっぱいの山のクリスマス。
ちっとも派手ではないけれど、絵にも文にも素朴な美しさが満ちていて、ぬくぬくと温められる。
いよいよ、町に帰らなければならない日がやってくる。
別れを嘆くハンシ(鹿か犬のワルドルになれたらいつまでもここにいられるのに、との言葉が愛おしくて)に、おじさんは、今度あう夏の山の素晴らしさを話して聞かせる。
ハンシが過ごした冬も、これから迎えるはずの夏も、ため息が出るくらい素敵なのだ。(夏の山の本もあったらよかったのに!)


見返しには、山の家の断面図が描かれていて、見ていて飽きない。
地下があり、一階には大きな台所や仕事場、二階には三つの寝室、屋根裏に洗濯物が干してある。ベッドの脇で身支度する男の子がいる。一方、台所ではせっせとおばさんが働いている。
表紙の見返しと裏表紙の見返しは同じ絵なんだけど……色がちょっと違う。比べて見ながら、そうだ、きっと……。裏のほうのは、夜明け前の家。表のほうのは、太陽が昇って何もかもが照らし出された時の家だ。