『黄色い夏の日』 高楼方子

 

黄色い点々のようなキンポウゲの花が咲く草むら。その向こうに、小さな塔のようなポーチを擁した洋館が建っている。
中学一年生の景介は美術部員。建物のスケッチの課題に、ずっと心惹かれていたこの家を選んだ。
そして、この家の主であるおばあさんと急速に親しくなり、彼女の本の整理を手伝う約束をして、この家に毎日通うようになる。
でも、それは家族にも友人たちにも話したくなかった。
なぜだろう……
この家のおばあさん小谷津さんも、この家の離れに住んでいる奔放な美少女ゆりあも、それから、隣家のしっかり者の少女やや子も、ちょっと不思議な雰囲気があった。
三人は、決して一緒には現れないし、現実離れしたような、奇妙な気配がある。
それぞれの前で、ほかの二人の話をすることがなんだか憚られるような気がする。
やがて、景介は、自分がゆりあに惹かれていることに気がつく。


景介の幼馴染の晶子は、景介の様子が奇妙なことに気がつく。
最近は、いつも心ここにあらずで、顔色も悪い。少しやせてきてもいるようだ。
それで、彼女は、景介のあとをつけてみることにした。


キンポウゲの花が揺れる庭。
からくり箱のような美しい古い洋館。
そこだけ現代の時間の流れとは別個のような場所。
不思議だけれど、不気味ではない。
いったいどういうことだろう、と物語を夢中で追いかけながら、同時に、急がなくていい、と思ってもいる。
この雰囲気に酔い、ここに私はまだしばらく留まっていたいと思うから。


屋根の周りをそよそよと吹くのは、吉の風と凶の風だという。
愛らしい黄色のキンポウゲには毒があるのだという。
……かわいらしいだけでも、美しいだけでもない。ましてユメユメしいとか。
ほんの少しだけの毒をたらすと、この景色はこんなにも忘れがたい色合いを見せるのだ。