シモンとクリスマスねこ

シモンとクリスマスねこ―クリスマスまでの24のおはなし (福音館文庫)シモンとクリスマスねこ―クリスマスまでの24のおはなし
レギーネ・シントラー
ジョータ・ユッカー 絵
下田尾治郎 訳
福音館文庫


クリスマスまであと24日。
待ちきれないシモンのために、おとうさんが飼い猫フローラの尻尾の縞を模して、クリスマス猫の絵を描いてくれました。
この猫のしっぽには24の縞があり、毎日一つずつ、色を塗りながら、クリスマスを待つのです。
そして、この本はクリスマスまでの24日分のお話がつまっています。
読者は毎日一話ずつお話を読みながら(読んでもらいながら)クリスマスを待つのです。


クリスマスにちなんたお話。ささやかな祈りのような物語が美しいと思いました。
だれかを幸福にするために小さな犠牲、贈り物の意味・・・
毎日、お話をひとつずつ読みながら、クリスマスってどういう日なのか、しみじみと考えるのもいいな。
待ち遠しい日だからこそ、ゆっくり待つことの大切さ。待つことが何よりのクリスマスの準備のような気がします。


私が特に好きなのは、二話の「ぶたの貯金箱」と、六話の「魔法のくるみ」、八話の「小さな白い犬のお話」です。


「ぶたの貯金箱」では、シモンのもとを訪れたお客がどんな人たちであったか、おかあさんにはわかっていたでしょう。
でも、ただ、「いいことをしたわね」というし、
このあと、「それほどきれいとは思えない」アドベントクランツに、黙って毎日灯をともすことでしょう。
とはいえ、やっぱり「いいんだよ、もう」ではすまない何かが残るのです。
その何かはなんなのか。
おかあさんの胸の内とシモンの胸の内は違うけど、だれか自分以外の人のことを考えているのはいっしょなんです。
静かな思いやりがゆっくりと満ちてくる感じがいいです。


「小さな白い犬のお話」は、犬の気持ちがいじらしくて、おとうさんのお話が終わった時、せつなくなってしまいました。
あとをついで語ってくれたおかあさんのお話がよかった。
小さい時、悲しいお話を読んだ時、
どうしてもハッピーエンドにしなければ満足できなくて、物語の続きを無理やり拵えていたことを思い出します。
もしかしたら、つづきはないほうがいいのかもしれないけど、物語のできよりも何よりも、
聞いている子がほっとして眠りにつけるように、という思いがうれしいな。


「魔法のくるみ」は、惨めな後悔から始まり、幸福な気持ちになるお話。その要になったのが、小さなくるみ、というのも素敵でした。
これは、二四話の、シモンのおばあさんのお話に似ています。
「なくさないようにね」「わすれてはだめ」「いつもよく見えるとはかぎらないから」「でも、じっと・・・見つめていれば・・・」
・・・信じること。信じたい、と願うこと。信じたら魔法が起こるかもしれないね。
ときにとても難しく思えることもあるから、無心に信じるために、小さなくるみや小さな琥珀の石が手伝ってくれたら、うれしいです。
そして、たぶん、クリスマスという日が手伝ってくれるような気がします。