『チキン!』 いとうみく

 

「ぼく」日色拓は、自分が弱いことを自覚していて、もめごとには近づかないし、何かあってもとりあえず丸くおさめようとする。
だけど、拓のクラスにやってきた転校生、真中凛は、流されることなく、正しいと思うことははっきりと言って、ひっこまない。そのために、転校してきたそうそうから、トラブルが絶えない。
波風立つことを嫌う拓は、ハラハラしどうしだ。


「見たいものだけを見て、見たくないものには目をそらして過ごしていけば、毎日はつらつらと流れていく」と考える拓。
「そういうものを全部掘り起こして、目の前にさらしていく」凛。
まるで真逆の二人なのに、一緒にいることが多くなった。
意外にも共通点がある。
二人とも空気を読まない。
極端なのは、凛だけではなくて、拓もそうなのだ。
クラスに気心の知れた友だちはがいないのは、転校生の凛はだけではなくて、ずっとこの学校で過ごしてきた拓も、なのだ。
それぞれタイプは違うけれど、間違ったことはしていない。
だけど、孤立するしかなくて、それは、やはり苦しいのだ。本人が。本人のまわりのだれかが。
間違ってはいないけれど、どこかで無理をしているのかな。


小学校高学年のどこにでもありそうなクラスの、どこにでもありそうな派閥や、不器用ないがみあいばかり。
教室って窮屈だよね、と思ったけれど、拓や凛のありようも、自分で自分を窮屈にしていたのかもしれない。


それぞれの家族の事情なども絡めながら、生き生きと子どもたちが描かれていく。
女王様気どりのあの子もどこかで凹んでみてもいいだろうに、なぜかへこたれないところが見事だなあ、と思う。そして、彼女のことが、だんだん憎めなってくるなんて、何なの、このクラス。
少なくても、「前より学校が楽しい」と思えるようになるのは。
真中凛効果かな。あるいは日色拓効果かな。
毛色の違う個性が際立つのが二人もいると(そして、周りを見まわせば案外そんなのばかりじゃないか)彼らがまわりに及ぼす力は徐々にクラスに浸透していくよう。思っているよりも空気は柔らかいのかもしれない。


風の又三郎みたいだな。さあっとひと吹きでみんなの心をさらっていった凛ちゃんは。