『ない本、あります。』 能登崇

 

「物語の元になる写真をインターネットで募り、製作した『ない本』を公開したところ、幸運にも多くの人の目にとまり、一冊の本として生まれることになった」
とは、『はじめに』の言葉だ。

 

この本の中で紹介された本は文庫本で、全部で28冊。
なのだけれど、一冊一冊が、どんなに特別でどんなに凝っていることか(ということは、どこからどこまで遊んでいるか)

 

最初に、もとになった画像(写真)が載っていて、次の見開きページで、その画像の一部を切り取ったり加工したりして作った「ない本」の表紙と裏表紙が紹介される。
タイトルと作家名がついて。出版社名がついて、会社のマークがついて。裏表紙左上にはご丁寧にバーコードが上下二段に並んで。
隅々まで凝ったデザインで、ほんとうに本屋さんの棚にこの本が平積みで置かれていてもちっとも変じゃない、と思うのに、よくよく見ればあちこち遊んでいて……
あれこれ発見もあるけれど、きっと見逃しているところがいっぱいあるにちがいない。

 

たとえば、
ガラス窓の向こう側に張り付いた蛙の写真は、蛙を大きく切り取ってタイトルは『落ちる』
と言われると、この蛙、張り付いているんじゃないくて、まさに落下の途上にあるのだ、と思わせられる。作者名は伊園木勇二、作者紹介によれば「……星雲大学人間環境学部卒。SF作家を多数輩出した「餅つきの会」の4代目会長を勤めるも……」とある。

青いビニールシートの上で何か作業中の若者たちの写真はタイトル『玉造高校巨獣配膳部』
作者氷見原郎堂の作者紹介の一部には「寡作で知られ「前作の印税を全部使いきってからじゃないと次作に手をつけない」と噂されている……そのためファンからは「もう二度とヒット作を書かないでほしい」との声もあがる」とか。

 

そして各「ない本」にはそれぞれ一編ずつショートショートストーリー(ジャンルさまざま)がついているという豪華な遊びなのだ。(もちろんフォントや段組みなど、それぞれに合ったデザインで)

 

28冊の最後の一冊は『ない本』……もとになった画像はない。
もちろんこの本にもショートショートがついている。
軽い気持ちで楽しくここまで読んできて、さらに嬉しい気持ちになる。
ない本は……そうか、そういうことなんだね。
ワクワクしてくるね。いいなあ、こんな「私だけの本」