『妄想銀行』 星新一

 

星新一ショートショートを読むのは、とっても久しぶりだ。
舞台も情景も、登場人物たちの立場も、ほんとにさまざまな短い物語は、最後の一行二行で、あっと驚くようなひっくりかえりかたをする。
びっくりのあとの余韻も、ほんとにさまざまで、思わずにんまりしてしまったり、ブラックな展開にぞーっとしたり、きつい皮肉にそわそわしたり、一方、よい夢をみたあとのような爽快感も味わえる。
収録作は32編。バラエティに富んだ、しかも、どれも粒ぞろいの(好みはともかく)、なんと充実した作品集だろう。


ショートショートだから、不快なあと味に出会っても、あまり考えないで、さくさくと読む。
つもりだけれど、案外、苦い味ってあとに残るみたい。そんなだから、ときに甘い味に出会っても、どこか信用できなくて、素直に「これおいしいね!」というより先に「私、揶揄われていない?」と疑ってしまう……いえいえ、やめておこう。
後を引かない、気軽に読めるのが魅力のショートショートだ。
そして、今度はどんなふうにひっくり返してくれるかなと期待しながら先に進む。


読書メモ、ほんの少しだけ。
『信念』途中で、オチの予想がついてしまうのだけれど、それでも楽しい。
『さまよう犬』は、この本のなかで一番短い。いいな、これ。その先を知りたい。
『鍵』まんなかへんがいい。おしまいがいい。
『住宅問題』は叫びたくなる。こんな住宅あったらいやだ。
『妄想銀行』も叫びたくなる。こんな銀行あったらいやだ。