『すきですゴリラ』 アンソニー・ブラウン

 

ハナはゴリラが大好きだけれど、まだ一度も生きているゴリラを見た事がなかった。
ハナのおとうさんは忙しすぎて、ハナを動物園に連れていく暇がないのだ。
誕生日のお祝いに、生きているゴリラに会えたらよかったのだけれど、ハナがプレゼントにもらったのは、ちっぽけなゴリラのおもちゃだった。
ハナはがっかりするけれど、「だけど まよなかって、ふしぎなことが おこります」
ちっぽけなゴリラのおもちゃはずんずん大きくなって……
ゴリラとハナは、とびきり素敵な時間を過ごすのです。


確かに素晴らしい時だった。
それは、きっとハナがいつもおとうさんと一緒に行きたかった場所であったり、やりたかったことだったのだろうと思う。
一つ一つ取り上げてみれば、どれもささやかな体験だったと思う。それが特別な体験になったのは、大好きな相棒と一緒だったからだ。
ただ一点、そこに色を刺すだけで、どうってことのない出来事が見違えるようになる。
ひとりぼっちの子どもの想像力が奇跡を呼び寄せたのかもしれない。
ハナにとってゴリラって誰だったのかな、と思うとなんだか切ない気持ちになる。
ゴリラが、玄関にかけてあったおとうさんの外套を着て出かけることにはきっと大きな意味があるし、
最後に、おとうさんのポケットからバナナがはみだしていることにも注目してしまう。


絵がとっても雄弁に物語を語っていて、ページごとに、文章に書かれていない「ことば」をさがしてしまう。


例えば……
ハナは、夜の動物園の類人猿のコーナーで、鉄格子の向こうの動物たちの顔を「なんだかかなしそう」という。
この動物たちが、いつものハナとおとうさんに見えなくもないのだ。
振り返れば、これ以前のページに描かれていた、ハナとお父さんのダイニングの家具や床のストライプや格子模様、ハナのベッドの柵の縦縞が、動物園の鉄格子を思い出させる。(動物園の鉄格子が、ストライプ模様に見える、とも)
今、ハナはゴリラと一緒に格子の外にいる。


ハナのいる部屋の壁紙の模様は意志をもっているようにみえるし、
ハナの家のなかに飾られた額や、町のポスターや看板の絵が、こっそりイタズラを仕掛けてくるようで楽しくて、そればかりを探してしまう。