『大人になるっておもしろい?』 清水真砂子

 

何の気もなく発される「カワイイ」という言葉を疑ってみる、という話から始まるこの本は、主に十代の若者たちに向けて発されている。だけど、きっと二十代、三十代にとっても……もっと上の、とりわけ私にとって、モノを考える手引きとなる本だった。
13のテーマは、若い友Kさんに宛てた手紙という形になっている。
怒ること、自信の正体。ひとりでいること。終わらない(終われない)祭りのこと。ルールとモラルがぶつかったら……
どれも鵜呑みにするのではなくて、「まてよ」と立ち止まり、自分の胸の内を整頓するためのものすごくありがたい助っ人なのだ。


たとえば、第二章「怒れ、怒れ、怒れ」のなかの、この件はどうだろう。
嘗て著者が教員をしていた底辺(と呼ばれる)高校の生徒たちと、映画『パリ20区、僕たちのクラス』の高校生たちとを比較するところがある。状況は違うけれど、どちらの高校生たちも、権力のある大人たちに大いに自尊心を傷つけられ、尊厳を奪われている。
そのことについて、映画の高校生たちは激しく怒る。
そして、著者の生徒たちは……怒らずに、むかついていた。
「怒りの底には、自分自身を大切にし、人間としての尊厳を手放すまいとする意志とともに、相手に対する期待なり信頼感がある……」
思うに、がまんすることに慣れてしまうと、怒り方がへたくそになるのではないか。
争いをさけることや我慢することを美徳(というより、当たり前のこと)として育った私自身を振り返る。


第六章「ルールとモラルがぶつかったら」では。
「心がゆたかになる」、この心地よい言葉について著者はこんなふうにいう。
「心がゆたかになるということは、天国を見ることと同時に地獄を見ることさえ意味しかねない」
また法令順守を意味する「コンプライアンス」という言葉、もともとは「服従」という意味の言葉だったことをあげ、その言葉が繰り返しすり込まれていくうちに「その言葉が本来持っていた意味がが薬のようにじわじわと効き始め」……ぞっとする。
どこからきたかわからないけど舌の上に滑らかに乗ってくる言葉は、詐欺電話に似ているかもしれない。


……こんなふうに立ち止まったフレーズは、各章、数限りない。
13章に分かれているけれど、テーマは簡単に章を越境していく。そして、どのテーマにも共通して、根底にあるのは、
一人でいることを大切にする、
自分(が大切にしているもの~不快な感情も含めて)を簡単に手放さない、
ということだろうか。話はそこからだよ、と。