『帰ろう、シャドラック!』 ジョイ・カウリ―

 

「まるで、飢きんにあったラクダじゃないか! でかいずうたいが、しぼんでしまって。……年寄りだとは聞いてたが、こんな老いぼれとはな。」
馬用トレーラーを引いてシャドラックを迎えにきた男が呆れて言ったものだ。
老馬シャドラックは、三人姉弟の長女10歳のハンナが生まれる前からうちにいた。昔はサーカスで芸をやっていたというが、両親に引き取られたのだ。
一家の愛する家族だった。ことにハンナにとっては。
でも、今は年老いて、歩くことさえもままならない。
遠くの町ネルソンの老馬ホームにシャドラックをやらなければならない、ということにハンナは渋々承知した。
でもそれは嘘。シャドラックが送られたところはドッグフード工場であることを姉弟は知ってしまう。
シャドラックを取り戻すために、ハンナは二人の弟とともに行動を開始する。
トラックの荷台にこっそり忍び込んで、ネルソンへ向かう。

 

ニュージーランド南島の海に囲まれた北端の町々の美しい光景が刻々と移り変わっていく、一日。
想像力豊かなハンナが道々、弟たちに語って聞かせる神話的な物語が素晴らしい。聖なるものがハンナの心から今飛び立って愛するシャドラックのもとに一息に飛んでいく。

 

シャドラックを取り戻す。
計画どおりにはいかない難題続きの道中に、姉弟たちの気持ちがばらばらになってきたりもして、それはハラハラしたものだ。
シャドラックは、いつ命が潰えるかしれない老馬。果たして一緒に戻ることができるのか。

「帰ろう、シャドラック!」というタイトルが、あまりに一途で切なくなる。
帰ろう。
ハンナがシャドラックを連れて本当に帰りたかった場所は……きっとシャドラックが元気だった頃の我が家。
サーカスで覚えたとぼけた芸などもやってみせて家族を笑わせていた、過去の我が家なのだろう。

 

母ソフィーが、ハンナに嘘をついたのは「ほんとうのことを言うと残酷だから」だ。子どもたちを愛していたから。
でも、本当に残酷なことっていったいどういうことなのだろう。
わたしがソフィーだったらどうしただろう、また、わたしがハンナだったらどうしてほしかっただろう、考えてしまう。
ハンナたちの冒険を追いかけながら見えてくるのは、彼らの後ろにいる大人たちの姿だったと思う。

 

シャドラックは美しい馬ではない。頭とひずめが大きくて、あごが異常に出ている、荷馬なのだ。
それが素敵だ。
そして、最後にこんなものを残してくれるなんて。
最高の馬だ。