『短編少年』 集英社文庫(編)

 

 

『逆ソクラテス伊坂幸太郎
『下野原光一くんについて』あさのあつこ
『四本のラケット』佐川光晴
『ひらかない蛍』朝井リョウ
『すーぱー・すたじあむ』栁広司
『夏のアルバム』奥田英朗
『正直な子ども』山崎ナオコーラ
『僕の太陽』小川糸
『跳ぶ少年』石田衣良

小学生から高校生まで、少年をテーマにした短編を集めたアンソロジー


『逆ソクラテス』と『正直な子ども』は似ている。『逆ソクラテス』に出てきた人によく似た人が、『正直な子ども』にも出てきた。
指導者である大人が子どもを決めつけるとき(しかも本人にはその自覚がないから、罪悪感なんて全くなくて)子どもには太刀打ちできるわけがない。先入観。そういうものがそこにあることにさえも全く気がつかないかもしれないのだ。すでに息も絶え絶えで、踏ん張っている子がいるかもしれないのに。
おとなのそういうところを敏感に感じとる子どもがいる。
二つの作品にはそういう賢い子が出てくるが、全くタイプが違うのがおもしろい。物語の雰囲気や方向も違うのがおもしろい。どちらも印象的。『逆ソクラテス』の少年の理屈っぽさや物語の余韻がとても好きだけれど、『正直な子ども』には、やられたと思う。

『四本のラケット』は、中学生たちの独特の空気に緊張する。テニスコートの整備を共謀して一人に押しつける、ぐーぱーじゃんけんのズルがきっかけだけれど、ズルをして得をしたはずの側が、実はそうではなくて……
嫌な雰囲気が漂うけれど、それがあることで、その集団はきっと捨てたものではない、と思う。

『ひからない蛍』は、少年が主人公だけれど、たぶんテーマは家族なのだ。
あまりといえばあまりな環境で生きていかなければならない子どもたちだから、読んでいて苦しかった。彼がほしがっているものは、そこへ行っても絶対手に入らないってわかっているから。だけど……

最後が『跳ぶ少年』
このアンソロジーに現れた子どもたちみんなの顔が目に浮かぶようだ。
美しく軽やかに跳ぶ少年の姿が、最後に現れたことが嬉しかった。
みんな跳べ。高く跳べ。跳んで、飛び立て。