『(新訳)ドリトル先生の郵便局』 ヒュー・ロフティング 河合祥一郎(訳)

 

新訳 ドリトル先生の郵便局 (角川文庫)
 

新・河合祥一郎訳で、ドリトル先生を読みました。
旧・井伏鱒二訳では、まるで宇宙人だった、かの国の人たちが、新訳では、ことにドリトル先生との会話で、人になった。
一方、旧訳で馴染んでいた人(動物)の名前が変わってしまったことは、ちょっと寂しいような気がした。(オシツオサレツ→ボクコチキミアチなど)


ドリトル先生は、旅先、西アフリカのファンティッポ王国から、なつかしいイギリスのバドルビーに向けて、船を出すところだ。
そこで、ある事件に遭遇したのがきっかけで、帰国を見合わせ、この地で、郵便局を始めることになった。郵便事情が怪しいファンティッポの王様の要請もあって始めたこの郵便局は、世界じゅうの鳥たちの協力で支えられている。鳥たちのリレーで、世界じゅうどこにでも郵便を配達する国際郵便なのだ。手紙を書くのは、人だけではない。動物たちも、彼ら独自の言葉で、書いてきたのだ。
ドリトル先生の国際郵便は、とにかく速い。アフリカのファンティッポで、夕方、イギリスに宛てて書いた手紙の返事が、翌朝の朝食のお盆の上に載っている、という具合だ。
様々な困難を乗り越える工夫や、「こうなったらもっと素敵だな」の夢をかなえる方法は、読者の想像力をくすぐる。


ドリトル先生の郵便局は海の上にある。ファンティッポの陸地から少し離れたところに停泊した郵便船なのだ。ここでは、午後になると、陸地から人や動物たちがやってきて、デッキでのんびりお茶を楽しむ光景が見られる。
ドリトル先生から始めて、一晩に一話づつ、動物家族が順番にお話をする「団炉端の時間」も楽しかった。それぞれらしいお話。私は、夜の森に迷い込んだ幼い兄弟を助けるフクロウのトートーの話が好きだった。


このお話が書かれたのは1923年だという。そのころ、イギリスから見たアフリカは、なんでもありの異世界だったのだろうか。
謎の島や湿地には、見たことも聞いたこともない奇妙奇天烈な生き物たちが暮らしている。
ここで、ドリトル先生は、おとなしく郵便局長の仕事をしていたわけではなく、奴隷商人や密猟者と渡り合い、竜がすむという島を探検したり、戦争には二回も巻き込まれているし、後ろ手に縛られて牢につながれたりもしている。
結構波乱万丈の物語だ。だけど、はらはらどきどき、というより、むしろ、のどかだと感じるのは、文章がどこまでもなごやかなせいかもしれない。
それから、大きいのも小さいのも、世界じゅうのほとんどすべての動物たちが、みんなドリトル先生大好きで、先生が何だか困っている、といえば、惜しみなく協力してくれるって、わかっているからでもある。