世界規模のエネルギー問題(石油は取りつくされた!)や、気候制御の失敗などによって、21世紀初頭、アメリカ合衆国は崩壊し、巨大な砂漠となった。人びとは、移民となって、ヨーロッパに渡った。
それから、約一世紀がすぎた。
小規模な探検隊を乗せてイギリスを発った蒸気船が、マンハッタンに上陸するところから、物語は始まる。
探検隊の面々は「船出したその日から、それぞれなにやら秘密の貨物をこっそり持ちこんだ」
「彼らがこの探検隊に参加した理由というのが、科学的な使命とはほとんど関係ないこと、また、彼らの持ちこんだ密輸品の正体が、じつはアメリカに対する集団幻想であることが、まもなくはっきりした。」
アメリカは、崩壊してもなお夢の国だった。
船の上から見たアメリカはきらきらと輝く黄金の世界だった。けれども、そこに足を踏入れたとき、金だと思ったものは、ただの砂(一面の、建物までも侵食する砂)だったことを知る。
物語の始まりで、夢の正体をみてしまったようにおもうのだが、そんなことでがっかりしたりはしない。
目の前には、まるごと夢のアメリカがあるのだ。
メイフラワー号を彷彿とさせる蒸気船。馬とともに西を目指して進む探検隊。
まるで、アメリカの開拓史を早送りで再現してみせているようだ。
燃料が枯渇した世界での移動手段、生き残る術が、人力や動物、水、蒸気機関など、古き良き時代の開拓者のようで、彼らの夢に、わたしも心踊らせる。
夢は、諸刃の剣のようだ。
困難な道中(そして、出会い)の間に、だんだん顕になってくるものがある。
後々、大きな夢(悪夢?)の塊にも巡り合うが、それよりも、ささやかな夢に向かって歩いている、探検隊のひとりひとりが抱えたもの(夢にとりつかれていくように思えた)が、滑稽で、醜悪なものに思えてくる。鬼気迫るような狂気を感じることもある。
夢という言葉はうつくしい。けれども、そこに狂気がまぶされたとき、夢は呪いに変わるのだと思う。
もしかしたら、夢そのものが、すでに狂気なのかもしれない。そんなことを考えてしまうと、冒険物語の面白さが、苦さに変わるのだが。
この作品は、1980年に発表されたそうで、物語のなかには、エンパイアステートビルも、貿易センタービルも、残っている。22世紀のニューヨークで、砂に覆われ、廃墟となりながら、建っている。
当然、1980年の作者は、2001年に何が起こるか知るよしもないのだけれど、2019年の読者としては、すでにないものが未来の廃墟に厳然と建っている様は、ちょっと不気味な夢のモニュメントのようだった。