黄色い雨

黄色い雨

黄色い雨


一つの村が廃村となり、忘れ去られようとしている。
村も人も、静かに静かに死んでいく。

静かに音もなく降り積もるようにやってくる沈黙。死。
物語はただただ静かですが、読んでいるとどんどん気持ちが透明になっていくような不思議な感じがします。
悲しいし、怖いし、苦しいし、何より寂しくて寂しくて仕方がないのですが、
それ以上に、別の明るい感情が湧いてきて、暗い思いを越えます。
喪われていく話なのに、不思議に満たされていくような気がします。


盛り上がりがあるわけではないのに、ラストに近づくにつれて感情がぐうっと盛り上がって泣きたいような変な気持ちになってくる。
物語が鮮やかな色に覆われていくようでもあり、
限りなく死に近づけば、生きていた日々が長い夢のようにも思われてきます。
たぶん、この空気のなかにたくさんの死者たちの存在を感じるからだ。
死者たちの記憶が、この空気のなかに混ざり合って、この土地全体がそれを離さないで持っているのを感じるからだ。
死は黄色い雨になって上から降り注ぐ。記憶は土の中から萌え出てくる。


時がたてば、そこに村があったという小さな徴さえも消えてしまうのだろうな。
でも、土も空気も、死者たちの記憶を手放さないだろう。そう思う。


こんなにも死に近づいたのに、近づけば近づくほど、
逆に、極めて穏やかな気持ちで生のほうへ顔を向けているような気持ちになる。
それも不思議だ。
たぶん、死があまりに透明で静かだと感じるからだ。あまりに親しく感じすぎるからだ。
ただ優しい沈黙に包まれているような読後感です。


*(補)
訳者のあとがきもよかったです。
スペインで作者と会う話がよかった。
けれど、そのきっかけを作ってくれたマドリード郊外の小さな書店セルバンテス書店との出会いの話がもっと素敵だった。