人喰い鬼のお愉しみ

人喰い鬼のお愉しみ (白水Uブックス―海外小説の誘惑)人喰い鬼のお愉しみ
ダニエル・ペナック
中条省平 訳
白水Uブックス


ミステリだったんだ、この本。って、今ごろ何言ってるんだ、って感じです^^
主人公の立場や、主人公をめぐる人物の設定がとってもユニーク。すごく個性的な面々で、それぞれにとっても魅力的です。
そして、軽やかに運ぶストーリー。だけど、起こる事件は血なまぐさくてなんだかあやしげ。
とてもおもしろかったです。
ただ、あまりに軽やかすぎて、いまひとつ設定(?)が把握できなくて、前半は、かなり苦戦しました。注釈がほしい〜。
主人公マロセーヌの家族構成とその事情がわかるまでに一苦労。
彼の職場の立場がわかるまでに一苦労。
職場の人間関係がわかるまでに一苦労。
そもそも職業的スケープゴートって何? 鈍いわたしは事情を呑み込むまでやたら時間がかかった。
なぜ笑っているのかよくわからなかった。
作者、親切じゃないのです(笑) いちいち懇切丁寧に説明していたら、この軽妙なリズムを壊す、といわんばかり。
当たり前の説明もとばすとばす。
必死になって文章の切れ目を結びあわせて状況がやっと理解できるようになった、と思ったときには、すでに事件が起こっている。
その事件さえも、本当はどういう状況だったの、なにが起こったの?と何度も読み直したりして・・・
作者、読者をからかってませんか〜?
わざと煙に巻いているでしょ。


だんだんいろいろなことが見えてくると、この不可思議な煙に巻く文章が、ストーリーにぴったりあっているような気がしてきます。
軽妙でおもしろいのに、すごく読み取りずらい文章。
ほんとうのことが嘘の涙や笑顔で隠された世界。
人喰い鬼とサンタクロース。


この世のしくみの理不尽さ、そんなばかな、と思いつつも怒りにまでならない。笑ってしまうから。
笑ってしまうけど、少し哀しい。
結構強烈な皮肉になっています。
かなりブラックなミステリなんじゃないか、と思うのですが、主人公をめぐる人間関係の温かさにほのぼのしてしまいます。
変わっているけど、良い家族、良い友人。


読み終えたときには、この哀れな(?)主人公とすてきな弟妹、好きになってしまいました。
マロセーヌ・シリーズ、つづきも、読みたい。
とりあえず、読みにくさは、この本で克服した、と思っているので、次はもうちょっとすーすー入っていけるでしょう。
この本に出てきた個性的な人々にはまた会えるでしょうか。会いたい人はたくさんいるんだけどな。