『死者の学園祭』 赤川次郎

 

死者の学園祭 赤川次郎ベストセレクション(12) (角川文庫)

死者の学園祭 赤川次郎ベストセレクション(12) (角川文庫)

 

 

とても久しぶりに赤川次郎を読んだ。
この作品は、昭和52年に発表されたそうで、背景がいろいろと懐かしかった。
ビデオカセット、16ミリフィルム、スライドなどがスチール棚に並ぶ視聴覚室。家庭のなかの親子電話。
「ながら族」という言葉もそういえば、聞かなくなってもう長い。


大阪の私立高校で、ひとりの女生徒が校舎四階のベランダから落ちて亡くなった。
居合わせたのは翌日東京へ転校する予定の結城真知子。
自殺、として片づけられそうな事件であるけれど、真知子は納得できなかった。亡くなる直前に少女は、ベランダの手すりを散歩するように歩き、下にいる真知子に楽しそうに手を振っていたのだから。
とはいえ、翌日、真知子は、東京の私立高校に転校していく。
そして、大阪の事件のことをふりかえるまもなく、次々にクラスメイトが三人、事故や自殺を装いつつ殺されてしまう。
三人は亡くなる前に学校の視聴覚室で、何かを見ている。たぶんそのせいで殺されたのだろう……
真知子は、友人の幸枝、恋人の英人とともに、真相を求めて、動き始める。


真知子は、探偵活動をしながら、「小説の中の名探偵」と、自分とのハンディキャップを感じてため息をつく。警察が手足となって動いてくれたり、情報が全て集まって、それを積み木のように組み立てていけばいいのが、小説の中の名探偵なのだ、という。なるほど、確かに。
この小説だって、手がかりも、妖しい人間も、この240ぺージのなかに全部書かれている。犯人も絞られて、わずか数人のなかの一人に過ぎない。
だから読者としてもこれらの情報を積み木のように組み立てていけばいいだけ……のはずだけれど。
ま・さ・か、という、思ってもみなかったとんでもないところへ連れていかれて、茫然としてしまった。そんな! そんな……


物語はおもしろい。
まるで手品みたいに、目の前で、ぱたぱたっと四角い箱が別の形に変わっていくのを、夢中で見ている。
主人公もその仲間たちも軽やかでチャーミング、物語のまとめ方もさわやか。
けれども、この軽やかさ、さわやかさに、少しばかり抵抗がある。
ちょっと、すぎるのではないか。
わからなくはないのだけれど、あちらもこちらも、気持ちを向けるべき方向が5度から10度くらいずれているような気がして、ちょっと居心地が悪い。