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『ポアロのクリスマス』に続けて、アガサ・クリスティーのクリスマスブックをもう一冊読んだ。
聖書から題材をとったという、詩と短編物語を集めたこの小さな美しい本が、ミステリの女王アガサ・クリスティーの作品なのだ。
『ポアロのクリスマス』で、盛大に血が流れる賑やかな(?)クリスマスを体験したあとに、静かで美しいクリスマスがやってきた。
最初の作品『ベツレヘムの星』は、傍らに眠る嬰児をみつめる母親がいる馬小屋での物語で、最後に収められた『島』は、わが子に導かれた母親がこの世を去っていく日の物語であるという、この並びが素敵だ。
どの物語もお祭りの賑やかさとは遠く、これは、静かに「クリスマスってどういう日?」と思いめぐらしたいときに相応しい本と思う。
『夕べのすずしいころ』では、世の中に何が起きてしまったのだろうと不安になる。でも、そうだとしても、同時に、揺るがないものがちゃんとあるのだと知るのは(それを見る目・感じる心が自分にないとしても)ほっとする。
アガサ・クリスティーの作品だけれど、この本に収められた物語はどれもミステリではない。
ミステリではないのだけれど、ときどき、ミステリの片鱗が見え隠れしているような気がする。
『ベツレヘムの星』など、ほとんどミステリといってもいいのではないだろうか。
「……そうしているうちに奇妙なことがおこった。そのときは気がつかなかった小さなことをいくつか思い出したのだ」
小さなことはミステリの真相に至る糸口かもしれない。
それから、『夕べの涼しいころ』の「いったいどこにいらっしゃるんでしょう?」との問いかけ。『水上バス』の消えた乗客。『島』の旅人が探している島のありか。
華々しいトリックはどこにもないけれど、少しだけのミステリを感じようとしながら読んでいた。
クリスマスの物語には、解かれるべき謎と、解けているのに気がつかずにすましている謎と、それから、そっとしておくべき謎とが、あるのだと思う。