『私立探検家学園1 始まりの島で』 斉藤倫

 

「わたし」こと松田コロンは、祖父(いまは行方不明)の希望で、小学五年生になる年に、私立探検家学園に入学した。
初登校の日は、急流を前にしてどうやって校舎に入るか、という試練から始まったが、その後も学園のハイテクぶり、施設の広さ深さ、設備の途方のなさに、呆気にとられた。
新入生の面々も、先生たちも、そして授業の内容、参加の仕方も、何から何まで驚くことばかり。
だけど、コロンの最初の戸惑いが「たのしくなってきちゃう」に変っていくに従って、私もいつのまにかワクワクしている。


探検家の敵は、前例、先入観だという。
上級生はここにはいない。先輩の「うまいやり方、しっぱいしないコツ、まえにだれかの考えた方法」が知らない間に踏襲され、校風が生まれるから。それは探検家精神の死だという。
算数の授業では、採点がない。かわりに、生徒たちはお互いの答えを披露し合う。問題が解けた人はどうして解けたか、解けなかった人はどうして解けなかったかを。「なるほど、とけなかった人は、そんなふうに考えるのか」という気付きがおもしろい。
おかしな学校だ、と思っていたけれど、居心地良さそうだなあ、こんな教育を受けたかったなあ、と思い始めている。


あれよあれよというまに、夏休み前の初めての実習を迎える。実習のミッションは、竜の卵(!)を持ちかえること。
なんと途方もない実習だったことか。場所は右も左もわからない謎の土地。奇妙な動物や謎の人影も現れる。助け合って前に進む仲間たちの豊かな個性に目を見張る。
コロンたちがみつけたもの、持ち帰ったものは何だったのか。


夢中で読んだ、ワクワクした。だけど、油断ならない。
気持ちよく高揚したり、ほーっと息をついているところで、すとんと落とされる。これはどういうことだろう。私が見ているものは本当に見えたままのものなのか。
コロンの祖父が昔、言ったという「だいじなことを、いかにもだいじそうにいうやつは、信用するな」という言葉が、読書中のガイドかな。すぐ忘れるけど。


大好きな寿司ネタは、一番最初に食べるか、一番最後に食べるか、という話も面白かった。
お寿司の食べ方じゃないけれど、ぜんぜん違うように見えるのに、同じ理由で同じ場所を目指して走っていることに気がつくこともあるみたい。それを思いながら、次の巻を読もう。