『じゅげむの夏』 最上一平

 

「ぼく」ことアキラ、山ちゃん、かっちゃん、シューちゃんは、天神集落に住む小学四年生。四年生が九人しかいない小学校で、そのうち四人が天神集落に住んでいた。
まわりは山。田んぼが広がり、泳げる川がある。
保育園に通うころから、一塊になって遊んでいた四人に、四年生の夏休みが始まる。この夏休みを最高の夏休みにしよう、冒険の夏休みにしよう、と四人は決めている。


四人のうち、かっちゃんは筋ジストロフィーで、徐々に歩くことが困難になってきている。歩くのがゆっくりのかっちゃんを、三人が「バカなこと」をしながら待つことは、四人にとってあたりまえのことだった。
四人一緒に行動するためには、何かしら工夫しなければならない。それでも、どんな冒険も四人一緒にする。それもまたあたりまえのことだった。


いい加減で向こう見ずに見える子どもたちだけれど、気をつけて見れば、四人のあいだには、すごく慎重で繊細な気配りが張り巡らされている。
誰もが、ほんとうは日々弱っていくかっちゃんを感じている、いつか歩けなくなることを不安がっている。でも、それをわざわざ口に出す子は、ひとりもいない。だからこそなのだろう、今を全力で遊びつくそうとする子どものエネルギーが眩しい。


一度だけかっちゃんは、「らいねんになったらとべなくなるかもしんねえし」といった。
そうなのだ。来年のことはだれにだってわからない。
少年たちの夏の冒険は、大人から見たら、ちょっと呆れるような馬鹿馬鹿しい事だったり、何かあったらどうするんだと一言いいたくなるようなことだったりだけれど、どれもこれも、夏空の下でなんて輝かしいのだろう。この眩しさは、彼らが、今しかできないこと、二度とないかもしれない一瞬一瞬を大切に過ごしているからでもあるだろう。


最後に、彼ら四人、将来の夢を語る。
来年。再来年。その次の年。何年も何年も後。彼らがどうなっているのかだれにもわからないのだ。
でも、今年の夏、彼ら四人、ここで最高の夏休みを過ごしている。