『やまをとぶ』 きくちちき

 

「ぼくの うちはね やまに かこまれている」


朝日が昇って始まる一日、夕陽がきれいと思える一日。
「ぼく」は、空を飛んでいく伝書ばとや、庭に来る鳥、野良猫に呼びかける。うちの犬くろと散歩をする。
たぬきのおやこも現れる。あなぐまやきじは、どこにいる。
「そらにのって ゆっくりまわる」トビは、「ぴゅーろろろー」と鳴いている。
絵が躍動している。


「ぼく」は、見ているいきものたち、感じているいきものたちに、見ること感じることで挨拶を送っているみたい。
「ぼく」のまわりの生き物たちの躍動が、「ぼく」をかこんで大きなひとつのいきものになっているみたい。


「ぼく」はぐんと大きな手で犬のくろを抱く。一緒に走る。一緒に止まる。「ぼく」の顔は、山の仲間たちといっしょに空をあおぐ。「ぼく」のからだがぐーんとのびる。「ぼく」の手足ものびていく。
深呼吸したくなってきた。


「やまは おおきくて そらは ひろいんだ」
うん、わたしも感じる。わたしの山と空。
この絵本を読んでいると、読んでいるということも見ていることもこえて、身体全体で感じていることに気がつく。
とびきりの山の空気を深く吸い込んで、まだまだ頬張って、「ぼく」と、山の仲間たちと一緒になって空をとんでいるみたい。地面を走っているみたい。いっしょにふわんと眠っているみたい。
ほら、身体全体が喜んでいる。


気持ちがいいなあ。うれしいなあ。
わたしの窓からは山は見えないけれど、それでも窓をあけて、外に出て、ここに住む生き物たちに挨拶したくなる。一緒にここに暮らすことの嬉しさをわかちあいたくなってくる。