『こえてくる者たち:翔の四季 冬』 斉藤洋

 

『かげろうのむこうで: 翔の四季 夏』『黒と白のあいだで: 翔の四季 秋』に続く、小学五年生の並木翔の冬は、三学期の初めに転校生、鞍森杏がやってきたところから始まる。杏と翔の家が隣り合ったマンション(ベランダ越しに会話ができるくらいの)でもあり、一緒に下校するようになる。翔と友人の涼、杏と友人の千里の四人で。
涼には、他の誰にも見えない霊が見えること、翔がときどき周りの景色とそれに伴う音とがずれて聞こえること、などは相変わらずで、二人にとってはあたりまえのように(まるで性格や体質の違いくらいの感じで)受け入れられているが……。


転校生の杏もちょっと不思議な子だ。祈祷師の祖母に関わることなのか、少し変わっていることを自覚している。(翔や涼の不思議な能力?と似通っている)
タイトルの「こえてくるもの」とは、なんでもなく過ごす当たり前の日常の隙間に割って入ってくる不思議(当人にはどうしようもない不思議)のことだ。
そうした不思議を不思議と思い、その理由をわからないというしかないとき、今まで当たり前だと思って過ごしてきたこの日常にこそ、容易にはわからない不思議が沢山あることに気がつく。


冬の街には、「かまいたち」と呼ばれる通り魔事件が多発している。まるで物語の背景にちらっと顔を出したように見える事件が、いつのまにか主人公たちのすぐそばにあり、思いもよらず巻き込まれていく事情は、二作目の「秋」に似ている。そして、物語のそこかしこに置かれた小さな切ないようなやさしいようなエピソードが愛おしく思えるのも。


だけど、これまでの二冊と違って、この本の結末は閉じているとは言えない。
数行の言葉、大したこともない光景。だけど思わず「え?」と何度も見直したくなる、あれ。思いがけない方向から現れた「あれ」は一体どういうことなのか。
このラストは、次の「春」につながっていくのかな。待ち遠しい春!