『ロンドン・アイの謎』 シヴォーン・ダウド

 

ロンドン・アイは巨大観覧車で、乗って一周するのに三十分かかる。
12歳のテッドは姉のカットと一緒に、従兄のサリムが手を振ってロンドン・アイに乗るのを見た。だけど、下で待っている二人の前にサリムは再び現れなかった。観覧車のなかでサリムは消えてしまったのだ。何が起こったのだろうか。


グロリアおばさんと息子のサリムは、ロンドンに住むテッドたちの家に泊まっていた。突然サリムが消えてしまって、一家は嵐の渦に投げ込まれたようになる。
テッドの家族、サリムの家族、ふたつの家族は余裕を失う。露わになるのは、多くの感情のなかでも、普段はなるべく隠しておきたい負の感情ではないだろうか。


たとえば、テッドの姉のカットは思春期で、徐々に親の干渉から抜け出そうとしているところ。この事件がきっかけで、母親から娘に対する不信が一気に噴き出し、母娘は互いを深く傷つけてしまう。


テッドは自分のことを「症候群」という。「ぼくの脳は、ほかの人とはちがう仕組みで動く」という。(いろいろな仕組みがあるのだけれど、印象的なのは、彼が嘘をついたり曖昧な言い方をすることが苦手なことだ。それゆえの生きづらさもたくさんあるけれど、潔いくらいにクリアな彼の言葉の前で、私はちょっと恥ずかしくなる)
彼の両親は、彼がみんなと一緒に生きていくために、ほかの人たちのなかで異質なものになってしまわないようにと、心を配ってきたが、いまの両親はそういう余裕を失っている。彼は、みんなの外に置かれた異質な存在になっていないか。
「嵐の真っただなかにいる人に話しかけても、まったく聞いてもらえない。嵐の音でことばは何も聞こえない」とテッドは言う。


サリム失踪の謎を解いたのは、「ぼくの脳は、ほかの人とはちがう仕組みで動く」といっていたテッドである。
他の人とはちがう働きをする脳の持ち主だったから、解くことが出来た謎だった。
だけど、謎が解けたというだけでは、事件は解決しない。
自分が解いた謎を、(聞く気のない)大人たちにどうやって伝えよう。
テッドが解いたのは事件の謎だけではなかった。そのことが、最高に気持ちのよい読後感を連れてくる。
少年の徒名ニークは「くそまじめなおたく野郎(ナードギーク)」の略語ではなくて、「ユニーク(個性的)」の略だ。