『月からきたトウヤーヤ』 蕭甘牛

 

このお話は、中国のチワン族に伝わる民話をもとに、民話研究者の蕭甘牛(自身もチワン族)によって、童話として書かれたものだそうだ。
チワン族は、山岳地帯の岩石の多い処をこつこつと切り開き、田を作ってきた人々で、稲作を営み、わらじをつくる仕事を大切にしてきたとのこと。
この物語の原題は「草鞋媽媽」(わらじおばさん)といい、一日中わらじつくりをするおばさんから始まることも、青年が険しい山を越えて金の鳥をさがしにいくことも、チワン族の人たちにとっては、すぐに情景が目に浮かぶような、馴染み深いものなのだろう。


物語は二つのパートに別れている。
第一部では、月から来た不思議なおじいさんが、わらじおばさんに草鞋を作ってもらったお礼に、一粒の種を贈る。
種は芽をだし、育ち、トウモロコシが実るが、それは、おばさんが待ち望んでいた赤ちゃん、息子なのだ。
大きくなった息子トウヤーヤは、目が見えずに弱っていくお母さんを助けるために、不思議な金の鳥をさがす冒険にでかける。


第二部では、金の鳥の噂を聞いた王様が、病気の姫を治すために、兵隊たちをさしむけて、金の鳥とトウヤーヤを連れてこさせる。
帰ってこないトウヤーヤを取り返すために、お嫁さんのわたひめは、かあさんのわらじおばさんを伴って都に向かう。


一部、二部ともに、民話らしい、安心の「ゆきて帰りし物語」になっているのだけれど、雰囲気は随分違うと思う。一部のほうは、幻想的な世界の冒険で、二部のほうは、人の世の冒険なのだから。


登場人物たちもそれぞれ魅力的だけれど、彼らとともにでかけていく草鞋づくりの道具たち(わらじうちのぼう、ぬのきりばさみ、わらじゆみ)の活躍が楽しい。わらじおばさんが長年使いこんだ大切な道具たちは、かけがえのない子どもでもあり、それぞれポンポン、チェンチェン、コンコンと名前がついていて、たえず「いい子だね」「きりょうよしだね」と声をかけられているのだ。
また、物語の要所要所ででてくるのが沢山のなぞかけ。なぞなぞという戦い方がいいなあと思う。詩(歌)で呼びかけられるなぞなぞには、やはり詩で答える。掛け合いがリズミカルで楽しかった。