『ぶどう畑のぶどう作り』 ジュール・ルナール

 

人々のささやかな暮らしや、小さな生き物たちの姿を、まるで写真に撮るようにうつしていく。


次々に舞台に上がる人々は……
人間には二種類の種族(金持ちの種族と貧乏種族)がいると信じている農夫。
初めてミサに遅れたことに気がついたおかみさんの心境がどんどんうつりかわっていく様子。
自分の人生を犠牲にして親のため、貧しい人のために尽くす娘のことを、まったく理解しない幸福な母親。
働きたいと切に願っているのに報いられない小さなボヘミアン九歳の憂鬱。


牧歌的な風景も、美しい描写も、読む人を簡単に安心させてはくれない。
誰かが懸命に生きる姿は、傍からみたら滑稽に見えることもあるのだ。
作者は、すまして、言葉で細密にスケッチしているように見えるけれど、横目で読者の半笑いを期待し確認しているにちがいない。
地道に生きている人々を笑いながら、心に残るのはもやもやとしたやるせなさだ。
相手に寄り添いたいと思っているのに、どうしても乗り越えられない壁を感じる。その壁を越えるための方便だろうか、それとも寂しい自嘲だろうか。この小さな笑いは。


私が好きなのは、人以外のスケッチだ。虫や鳥、家畜たちのこと。
一番好きなのは、これ。

「壁――なんだろう、背中がぞくぞくするのは?」
 蜥蜴――おれだい。」

まるでルナールの『博物誌』の続きを読んでいるようで、「イメージの狩人」とはよく言ったものと思う。
こういうのをもっと読みたいな。