『子どもの本で平和をつくる:イエラ・レップマンの目ざしたこと』 キャシー・スティンソン、マリー・ラフランス

 

戦後のドイツで、イエラ・レップマンは、まず、世界じゅうから子どもの本をあつめて展示会を開いた。
彼女は、すばらしい子どもの本は人びとが理解し合うための〝かけ橋"になると信じていたし、子どもには、食べ物と同じように本も必要だと考えたからだ。
巻末にはイエラ・レップマンが実際に何を目指して、どういう活動をしてきたのか、どんな実がもたらされたのか、丁寧に書かれている。
だけど、この絵本の主人公は、イエラ・レップマンではない。


この絵本に登場するのは、いつでもお腹がぐうぐう鳴っている少女アンネリーゼと弟。
瓦礫だらけのドイツの町には、きれいなものはひとつも見えなかったし、いくら片づけても、戦争前のきれいな町にはもう戻らないと思っている。
彼らは、町をあるいているとき、外国の本がたくさん飾られた「大広間」に出会った。
そこは素晴らしい場所だったのだ。
ふたりの子どものお腹以外の場所がどんどん満たされていくのを見て、初めて、そこが今までどんなにからっぽだったかを知った。
お腹がすいているのは誰でもよくわかるけれど、それ以外の場所がすいていることは気がつきにくいものだ。


その晩、アンネリーゼと弟は、昼間出会った本のことを話す。読んでもらった本のこと、何が書いてあるのかまだわからない本のこと……
それから、「お話」が始まる。新しく生まれてくる子どもたちの「むかしむかし……」は、こどもたちの未来の物語みたいだ。
それは、ほとんど幻想的、といっていいくらいの美しい場面。そして、ワクワクする場面でもある。


「あしたは(町の)がれきのかたづけをてつだおう」とアンネマリーは思う。戦争でめちゃくちゃになった図書館に、いつかまた新しい本がならびはじめるように。
瓦礫の間にきれいな花が咲いているのが、いまのアンネマリーにはちゃんと見えている。