『深夜特急4 シルクロード』 沢木耕太郎

 

 

インドからパキスタンアフガニスタンイラクへと、バスを乗り継いで次々に国境を越えていく。
今までののんびりした旅から一転、ひたすら前へ。シルクロードをひた走る感じだ。


バスといっても、乗り合わせたそれぞれのバスが非常に個性的(よく言えば)なのだ。
パキスタンのバスはとんでもないスピードで走る。対向車とチキンレースをする。命の危険を真剣に感じたというのに、結局、ほかの乗客たちの笑いに引き込まれたこと。
アフガニスタンイラクの国境からテヘランまで乗り合わせたヒッピーバスは、正規ルートを行くバスよりも目的地までの所要時間はもっとも短いはずだったが……。そして乗り合わせた面々のこと。


パキスタンでは爆弾男と間違えられてあやうく逮捕されかけたり、アフガニスタンではホテルの客引きをしたり、驚きの体験は絶えない。
だけど、人と会話することが嫌になったり、一方、人を恋しがったりするくだりが、いくつかあり、気になった。つんのめるように前へ前へと進む著者は、もしかしたらかなり疲れていたのではないだろうか。


アフガニスタンの風景はこころに沁み入るようだった」というその風景描写が素晴らしくて心に残った。
「……駱駝を引き連れた遊牧の民が落日を浴びながらゆったりと砂漠を横切っていく。あるいは砂塵にまみれ、薄汚れた灰色になってしまった遊牧民の包(パオ)が、二十近くも砂漠の一か所に固まって張られ、その間から夕餉の支度なのだろう白い煙が幾筋も立ち昇っている」
「夕陽を隠す西の山と、その光を受ける東の山と、それらに囲まれた一台のバス。この広大な砂漠にあるのはただそれだけだった……」