『火の鳥ときつねのリシカ』 木村有子(編訳)

 

 

最初のお話が『題名のないお話』で、
「このお話は長くなりますよ。
みなさん、いいですか。よく聞いてくださいね」に、わくわくする。もくじをみれば、こんなにたくさんの題名が。
さあ、お話が始まる。


冒険の旅に出るのは心優しい知恵ものだけど、たいてい与えられた課題を一人でやりぬく力はないのである。そこに手を貸してくれる不思議な存在が楽しい。チームになるともっと楽しい。不思議な力を持った三人男とか、三人のおばあさんとか、海と陸の動物たちとか。
なんてこともないアイテムが、とんでもなく役にたつこともある。小枝や、鶏の小骨とか。


子に恵まれない両親もいる。
やっと授かった子どもは異形であったりもするが、明暗くっきりの、おやゆびこぞうに、オテサーネク。
聞き分け悪い子どもに腹をたてて、ついうっかりもらした呪いの言葉のせいで、取り返しのつかない思いを噛みしめるしかない親たちもいる。
親思いの子どもが、長い不在の後に、王子や王妃になって戻ってきたりもする。


ほかの地方の昔話によく似た話もいろいろあるが、ではそれらとどこが違うのか、眺めてみると楽しい。
たとえば、登場人物の名前、森や村の景色。
「お菓子」ならペルニーク(チェコの焼き菓子であるそうだ)、愛情の重さにもたとえられる貴重な塩はバラの花の姿になって現れたり。
よく知っているお話、と思っていると、思いがけない展開が待っていたりするのも、油断できない。


最後のお話が『おわりのないお話』で、
「……きょうはここまで。また今度、お話のつづきをしましょうね」
名残を惜しみつつも、ここでおしまいではないこと、このつづきがあることに納得して、楽しみを近い未来に持ち越しながら本を閉じられるうれしさ。
いつかどこかで、お話のつづきがまた始まる、きっと。