『児童文学の中の家』 深井せつ子

 

児童文学の中の家

児童文学の中の家

 

 

この本では、27のよく知られた児童文学(とは限らないが)の家の内外、周囲の様子までもが、美しいイラストで紹介されている。


私がこの前読んだ文庫本の『スタイルズ荘の怪事件』には、事件のあった部屋の簡単な図が載っていた。ベッドや暖炉、テーブルや椅子が簡単な四角や丸で記されていた。広い部屋であることや家具の配置はわかるが、味気ない。
その四角や丸が、この本『児童文学の中の家』で、もともとの姿に戻される。ほら、こんなに美しくて重厚な家具だったのだ、きっと。
床の敷物や棚の上の置物まで揃えて、居心地よさそうな部屋になる。
文書箱や暖炉の上の燭台。柔らかな線と色とで丁寧に描き出されるこまごまとした調度品に想像力を刺激されて、この絵の先はどうか私も参加させて、と名乗りたくなってくる。
実際に絵を描くわけではないけれど、頭のなかではすでに、続きの部屋や、そのドアの向こうの様子が、膨らみ始めている。
なんて楽しい!


家や部屋部屋に配置された家具だけではなくて、たとえば、『ライオンと魔女』の美しい意匠をこらした衣装箱。
箱の淵に手をかけて、片足上げているのは、今まさに箱の中に潜り込もうとしているスーザンの後ろ姿だ。
こちら、巨大で重厚な箪笥には、小さく開けた扉の中に消えていこうとするルーシーの後ろ姿。
彼女たちの姿は、本の外にいる読者を絵の中に導く案内人のようだ。彼女たちの後ろ姿を追いかけながら、この絵の続きを思い描いていく。


幸福の王子』についてのあるページには、ルビー、サファイア、金のひとひらを咥えて飛ぶツバメが描かれている。
ツバメの様々な飛び姿がいくつも、くるくるした点線の軌跡の上にいて、美しい。


家はときには森の中の電車の客室だったりする。
飛ぶ教室』の禁煙さんの住まいは、青い夜のなかに、ぼんやりと浮かぶ。窓々に淡い黄色の光をともしながら。


家はときには城だったりする。
ハムレット』の舞台となったクロンボー城では、夏の間だけ野外劇場が設けられるそうだ。
城の野外劇場で上演された英語版『ハムレット』の思い出を著者は語ってくれる。
夏というのに毛布が必要な夕暮れの冷え込みなどが、海の匂いとともに、読んでいるこちらにも伝わってきた。肌寒く、というより、心地よく。


家のまわりの動物たちの様子、人々の話し声、空気の匂いや、時代背景までも感じられて、物語の舞台が浮かび上がる。
そして、主人公たちの思いや独り言(に寄せていた子どもの頃の私の気持ち)が蘇る。
それら全部、まるごと「児童文学の中の家」だったのだ、と気がつく。


フクロウがいる。りすもいるし、シロクマもいる。トナカイもいる。
バイオリンにシルクハット。氷でできたゴブレット。屋根裏部屋の本の虫。
ああ、これは、あれは、いったい何のお話だったっけ。